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江間義時(北条義時)の最初の妻

 江間義時(北条義時)の最初の妻は、「阿波局(あわのつぼね)」と呼ばれ、長男(嫡男)・安千代丸と次男・金剛丸(江間太郎泰時)を産んだという。

   江間義時(北条義時)
    ├───┬長男:安千代丸【11歳で死亡】
   阿波局   └次男:金剛丸(後の第3代執権・北条泰時)【北条宗家】

 ただ、長男・安千代丸は「大池の大蛇」に飲み込まれて早世したので、次男・金剛丸(大蛇をも倒しそうな名だ!)が嫡男になった。
 長男(嫡男)・安千代丸は、11歳の時、千葉寺(千代田団地公園の北側)で勉強した帰りに「大池(伊豆中央道江間料金所付近。現在は埋め立てられて「池田」)の大蛇」に飲み込まれてしまった。安千代丸の菩提寺は萬徳山北條寺(現在の巨徳山北條寺。男山→巨徳山)で、安千代丸の霊を祀るのが珍場神社である。
 また、江間に江間義時(北条義時)が建てた豆塚神社(2つに分けた式内・石徳高神社の片方)の「北条義時の出世絵馬」や御朱印には2匹の竜が描かれているが、これは、「北条家の家紋「三つ鱗(うろこ)」や義時にまつわる「池田の大蛇」の伝説にちなみ、竜をモチーフにしたデザインを採用した」(下記リンク「あなたの静岡新聞」)のだという。ちなみに、北条氏の家紋は、北条時政が江の島に参籠した時に得た五頭龍の3つの鱗である。
※「あなたの静岡新聞」
「北条義時の「出世絵馬」 ゆかりの豆塚神社で販売 伊豆の国」
https://www.at-s.com/sp/news/article/shizuoka/1032522.html?lbl=10281

 次男・金剛丸は、『吾妻鏡』に、建久5年(1194年)2月2日に数え13歳で元服したとある。ということは、生年は、1194-12=1182年=養和2年/寿永元年(治承6年)となる。(「於幕府有其儀」(幕府に於いてその儀(金剛丸の元服式)あり)───北条家ではなく、鎌倉幕府が行ったという点が凄い!)
 北条泰時は、仁治3年(1242年)6月15日に死去。享年60だというから、生年は、1242-59=1183年(寿永2年(治承7年))となる。
 「寿永2年生誕説」を採用されている方が多いが、残念ながら、『吾妻鏡』の寿永2年の記事は、未編集なのか、欠落している。

■『吾妻鏡』「建久5年(1194年)2月2日」条
 建久五年二月小二日甲午。快霽。入夜。江間殿嫡男〔童名金剛。年十三〕元服。於幕府有其儀。西侍搆鋪設於三行。
 一方着座
  武藏守義信 上総介義兼 伊豆守義範 信濃守遠義
  相摸守惟義 江間小四郎殿 大和守重弘 八田右衛門尉知家
  葛西兵衛尉淸重 加藤次景廉 佐々木三郎盛綱
 一方
  千葉介常胤 畠山次郎重忠 千葉新介胤正 三浦介義澄
  梶原平三景時 土屋三郎宗遠 和田左衛門尉義盛 藤九郎盛長
  三浦左衛門尉義連 大須賀四郎通信 梶原刑部丞朝景
 一方
  北條殿 小山左衛門尉朝政 下河邊庄司行平 結城七郎朝光
  宇都宮弥三郎頼綱 岡崎四郎義實 宇佐美右衛門尉祐茂 榛谷四郎重朝
  比企右衛門尉能員 足立左衛門尉遠元 江戸太郎重長 比企藤内朝宗
 時剋。北條殿相具童形參給。則將軍家出御。有御加冠之儀。武州。千葉介等取脂燭候左右。名字号太郎頼時。次被獻御鎧以下。新冠又賜御引出物。御釼者里見冠者義成傳之云々。次三獻。垸飯。其後盃酒數巡。殆及歌舞云々。次召三浦介義澄於座右。以此冠者。可爲聟之旨被仰含。孫女之中撰好婦。可隨仰之由申之云々。

 江間義時(北条義時)の最初の妻にして 北条泰時の母・阿波局については、
・「母阿波局」(『鎌倉年代記』)
・「母御所女房阿波局」(『武家年代記』)
・「官女阿波局」(『系図纂要』)
以外には分からない。また、当時、「阿波局」と呼ばれていた女性には、
・北条泰時の母(江間義時(北条義時)の最初の妻)
・北条義時の妹(『鎌倉殿の13人』の実衣。阿野全成室)
・待宵の小侍従(石清水八幡宮護国寺別当光清の娘)
・加地信実の娘
がいる。
※「歴史ぶろぐ」「阿波局 謎多き北条泰時の母」
https://reki-historia.com/2021/12/01/awanotubone-yasutoki-mother/

 『鎌倉殿の13人』では、源頼朝の伊豆国流人時代からの側近・中原光家の屋敷に隠れ住んでいるはずの亀の前が大倉御所にいて奥を仕切っていると変え、鐙摺城に幽閉されている父・伊東祐親の世話をしているはずの伊東八重が大倉御所に入ったと変えた。変更理由は、北条泰時の母・阿波局が大倉御所の官女だからであろう。つまり、脚本家は、視聴者に向けて、

━━亀の前と伊東八重の2人の官女。さて、どちらが阿波局でしょうか?

とクイズを出したのである。
 「前」とは、女性の名の下に付けて尊敬の意を表す言葉であり、「局(つぼね)」とは、京都御所や大倉御所に仕えている官女の中で重要な地位についている女性をいう。とすると、奥を取り仕切っている亀の前の方が阿波局である可能性が高い。
 「局」とはいえ、北条泰時の母・阿波局は、身分の低い女性だったようで、江間義時(北条義時)の正室ではなく、側室である。にもかかわらず、庶長子(長男ではあるが側室の子)・北条泰時が源頼朝に認められ、北条義時の跡を継いで執権になれたということは、

━━亀の前は「拝領妻」であろう。

 「拝領妻」とは、「主君の子を宿した妾を家臣に与える」という風習である。有名なのが、徳川家康の正室・瀬名姫(後の築山御前)の母である。井伊家から今川家に人質として出され、今川義元にレイプされて子を宿し、今川一族の瀬名義広(後の関口親永)に「拝領妻」として与えられた。このため、井伊直政は、徳川家康に目をかけられ、遠江武士であるにもかかわらず、異例の出世を果たした。(「徳川二十四将」のうち、遠江武士は井伊直政のみ、尾張武士は緒川(尾張国桶狭間と三河国刈谷の中間)の水野忠重のみ、駿河武士は0人で、残り22将は全て三河武士である。)

 話がそれたが、側室の子・北条泰時が、北条宗家「得宗」の嫡男、さらには執権になれたのは、井伊直政の異例の出世と同様で、「阿波局の正体が拝領妻・亀の前だから」「北条泰時は源頼朝の子だから」というのが『鎌倉殿の13人』での設定かと予想し、源頼朝から妊娠した亀の前を与えられて、とまどいながら尻に敷かれる小栗旬さんを想像してはニヤニヤしていたが、私の想像はどうもはずれで、『鎌倉殿の13人』における江間義時(北条義時)の最初の妻にして 北条泰時の母・阿波局は、伊東八重の方らしい。

※坂井孝一「「阿波局」が二人いる…八重に秘められた謎に迫る」https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4319

 とはいえ、実際の亀の前は、「亀の前事件」後、「椿の御所」に入って源頼朝との逢瀬を続け、源頼朝が亡くなると、出家して尼になり、「椿の御所」を寺に改修して、源頼朝の菩提を弔う日々をおくっているし、実際の伊東八重は、父・伊東祐親の自害後、源頼朝の仲介で相馬師常と結婚しているので、どちらも阿波局ではありえない。

 よく『鎌倉殿の13人』と比較される1979年NHK大河ドラマ『草燃える』では、阿波局は、大庭景親の娘・茜(あかね)として登場する。北条義時の妻として鎌倉で暮らしていたが、源頼朝に夜這い(レイプ)され、どちらの子か分からない子・北条泰時を出産し、北条義時の元を去ると、平家女房として建礼門院に仕え、壇ノ浦で入水自殺した。(壇ノ浦より鳴門の渦の方が「阿波」っぽいが。)源頼朝は、「北条泰時は自分の子だ」と感じとって、北条泰時を出世させた。
 阿波局の謎に、
・「なぜ2人の子しか産んでいないのか」
・「どうなったのか」
があるが、『草燃える』の「人妻なのにレイプされて身篭った事を恥じて北条義時の元を去った(だから北条泰時が最後の子。だから2人しか産んでいない)」という説明には説得力がある。
 『鎌倉殿の13人』では、阿波局(伊東八重)がいつ、どうして退場するのか興味津々である。「北条義時が正室・姫の前に惚れ込んで鎌倉を離れず、江間の阿波局(伊東八重)を疎んじた(江間に通わなくなった)ので、離婚して相馬師常と結婚した」とでもするのであろうか。私が脚本家なら「千鶴丸が奥州で生きている事を知り、北条泰時を乳母の元に置いて奥州へ旅立つ」とするが、さて、いかに。

 いずれにせよ、阿波局の正体については、Reco説が最も蓋然性が高いと自負している。阿波局の正体に気づいた時は、
「いや、いや、それはないな」
と思ったが、もしそうであるとすると、北条氏関連の謎、たとえば、阿波局の謎である「なぜ2人の子しか産んでいないのか」「どうなったのか」も簡単に解けて、ストンと腑に落ちてしまうので、以前、noteで発表させていただいた。
「蓋然性は高いが、トンデモだな」
と笑っていただければ、これ幸いである。

【補足】江間では「江間義時(北条義時)の長男は安千代丸で、次男は金剛丸」とされるが、金剛丸は、元服して「江間太郎泰時」と名乗っている。「太郎」であるから、長男だと考えられる。とすると、安千代丸とは?
説①:安千代丸が亡くなったので、金剛丸は太郎と名乗った。
説②:安千代丸は江間義時が引き取った伊東八重と江間次郎近末の子。
説③:安千代丸は架空の人物。飲み込んだ大蛇も存在しない。
 大蛇については「蛭島の源頼朝が、三嶋大社を参拝しようとしたが、増水で川を渡れなかった。その時、大蛇が現れ、丸木橋のようになったので、無事、渡ることができた」という伝承もあるが、まぁ、いないでしょうね;

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