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『熱田神宮異聞』神剣盗難事件②

 道行(どうぎょう)が盗んだ草薙剣は、天智天皇に返された。
 天智天皇は、各国から従属の証にと差し出されたレガリアを納めた「大和政権の武器庫」石上神社(奈良県天理市布留町)の摂社・出雲建雄神社(祭神の出雲建雄神は草薙剣の荒魂)に草薙剣を保管していた。

★「神代三剣(かみよさんけん)」 
天羽々斬剣(あめのはばきりのつるぎ)   :八剣宮のご神体?
天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)=草薙剣:熱田神宮のご神体
布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)    :石上神宮のご神体

 その後、天武天皇が草薙剣を内裏に移したが、朱鳥元年(686年)5月、天武天皇が病に倒れた。『日本書紀』に、
5月24日 天皇始体不安。因以於川原寺説薬師経。安居于宮中。
6月10日 戊寅。卜天皇病、祟草薙剣。即日、送置于尾張国熱田社。

とある。
 病因が神剣の祟り(宮中に神剣を置き、熱田社に戻さないこと)と判明したので、その日のうちに草薙剣は熱田神宮に戻された。

《朱鳥元年(686年)6月戊寅(10日)》
戊寅。卜天皇病、祟草薙剣。即日、送置于尾張国熱田社。
「戊寅、天皇の病を卜(ぼく)すに、草薙剣に祟れり。即日(そのひ)、尾張国熱田社に送り置く」
(10日、天武天皇の病を占うと、草薙剣の祟りと判明したので、即日、尾張国の熱田社に返還された)

 返還にあたり、再び盗まれないように、天武天皇は熱田神宮の改修と警備兵の常駐を指示した。改修期間、草薙剣は神職・田島家(本姓:尾張宿禰)の邸内の一部を「影向間(ようごうのま)」として安置された。この影向間は、現在、熱田神宮末社・影向間社となっている。

熱田神宮では、
5月4日に酔笑人神事(えようどしんじ)
5月5日に神輿渡御神事(しんよとぎょしんじ)

が行われる。

■酔笑人神事(えようどしんじ)
天智天皇の御代、故あって神剣は一時皇居に留まられましたが、天武天皇朱鳥元年(686)勅命により当神宮に還座(かんざ)されました。この時、皆がこぞって喜んだ様を今に伝えるものです。喜び笑う様から「オホホ祭り」とも呼ばれます。
この神事では祝詞・神饌がなく境内の灯りも全て消されます。古くより見てはならないと語り伝える神面を神職各自が装束の袖に隠し持ち、中啓という扇で神面を軽く叩いた後、全員が一斉に「オホホ」と笑う神秘的な神事です。
https://www.atsutajingu.or.jp/jingu/shinto/eyoudoshinji.html
■神輿渡御神事(しんよとぎょしんじ)
酔笑人神事(えようどしんじ)の翌日に行われる神剣還座の故事に由来する神事です。
天智天皇朱鳥元年(686)、神剣が当神宮に還座された際「都を離れ熱田に幸すれど、永く皇居を鎮め守らん」との神託(しんたく)にもとづくもので、「神約祭(しんやくさい)」とも称されます。
当日は、雅やかな装束を着けた約100名の奉仕者が御神宝をささげ持ち、神輿を中心に行列を整え、本宮から正参道を経て鎮皇門跡(ちんこうもんあと・現在の西門)へと進まれ、皇居を護り鎮める祭典が執り行われます。
https://www.atsutajingu.or.jp/jingu/shinto/shinyotogyoshinji.html

 2度目の神剣盗難事件は、天保10年(1839年)1月19日に起きた。
 こちらは、土用殿の草薙剣ではなく、八剣宮の道行が作らせたレプリカ(素盞嗚尊が八岐大蛇を斬るのに使った十拳剣=天羽々斬剣?)の盗難事件である。厳重な警備の中、どうやって盗み出したのか不思議であるが、神威、霊験によって、翌朝戻ったというのも不思議である。

■岡田啓&野口道直『小治田之真清水』(巻2)「熱田部」
八剣宮の異事
天保10年亥正月19日の暁、八剣宮に妖僧狼藉の異事あり。まさしく往古の新羅の法師・道行がふるまひに少しもたがふ事なかりし也。(但しむかしの道行は、御本社を目がけ、今の妖僧は八剣宮を犯し奉まつり)されど道行は神剣を遠路まで遷し奉り、今の妖僧は僅か1里計り東まで御動座なし奉りしが、神威霊験おましまして、翌朝本殿に還らせ給へり。神殿の鎖し厳重に且つ宿直の社人の守り怠りなく凢人の窺ひ入るべきやうなきを、いかなる方便(てだて)して、かくふるまひたるにや、いといと不思議なる事ども也。其の時のありさる妖僧が始末等、神秘の恐れありて、委しく記す事あたはずこと、もとより世に披露なき密事なれど、日本書紀の先蹤(せんしょう)によりてしばらくこれを略記して神霊の末代までもうすらぎ給はざる旨趣を少しく著はすのみ見ん人、委しく言はざるを咎むる事なかれ。(或説に、此の妖僧は、念仏者・徳住が徒の有髪の男也ともいへり。頭髪の延びて俗体に見えしなるべし。)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1240756/23

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