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「峯乃薬師」小考

「峯乃薬師」とは、鳳来寺山に祀られている薬師如来像のことで、
①利修仙人の入山前の(薬師堂の)薬師如来像(『先代旧事本紀大成経』)
②利修仙人の入山後の(本堂のご本尊の)薬師如来像(『鳳来寺興記』)
③平成の薬師如来像(「七本杉」の伐採)
の4体がある。(前立は菅沼正定の寄付。)

また、「江乃薬師」「浜名薬師」など、同木同作の薬師仏が8体ある。

1.概論

①利修仙人の入山前の薬師如来像

 利修仙人の入山前のことは、本堂の全焼により、全ての古文書が焼失したのでよく分からないが、『先代旧事本紀大成経』に推古天皇10年(602年)冬閏10月1日、三河国から大鳥の尾が奉献された話が載っている。国司が、
・桐生山の山頂に樹高150m、幹周57mの「神代桐樹」がある。
・根本に空洞があり、竜が棲み、大雨を降らしたので霧降山ともいう。
・「神代桐樹」の西の枝は54mあり、この枝に大鳥が棲んでいる。
・また空洞の中に1体の仏像がある。
と奏上すると、聖徳太子は、「その大鳥は鳳凰であり、竜を追い出し、その仏像(薬師如来像)を祀る寺が建てられるであろう」と予言したと言う。予言は的中し、薬師堂が建てられ、
・薬師如来像(砥鹿神社奥宮裏の守見殿社(神宮寺の薬師堂)の御祭神)
・神農比古像
・大国主命像(砥鹿神社の御祭神)
が祀られたという。

②利修仙人の入山後の薬師如来像

きりふ(桐生、霧降)山には7本の杉の巨木があった。常に天童が8人来て、  
  椙木医王薬師仏 ※『勅養寺縁起』では「生木医王薬師仏」
  一歩一見諸群生
  現生安穏得長寿 ※「現世安穏得長寿」
  後生無量寿仏国 ※鳳来寺の石碑では「後生夢号寿仏国」
と「天童之偈」を唱えるのを、薬師如来の化現・利修仙人が見て、「七本椙の正体は七仏薬師(薬師如来7体を並べて祈る『七仏薬師法』で使う7体の仏像)に違いない」と見抜き、1本を伐採して、薬師如来像と脇侍の日光菩薩像、月光菩薩像を彫って岩の上に安置したのが、本堂の「峯乃薬師」だと言う。(後述のように、『法隆寺縁起』ではスギではなく、ヒノキ。)

・常に天から降りてくる童子は8人。なぜ7人ではないのか?
・7本の杉が「七仏薬師法」で使う7体の仏像に見えたのであって、1本伐ってしまっていいのか? 天童に怒られないか?
・なぜ「七仏薬師法」で使う7体の仏像ではなく、薬師三尊像にしたのか?

③平成の薬師如来像

「七仏薬師=七本杉」の1本は利修仙人に伐られてしまったが、「六本杉」は残った。最後の1本は、平成2年(1990年)9月20日、台風19号により折れたので、根元から伐採し、「平成の薬師如来像」(仏師・小野寺久幸)が彫られた。

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