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築山御前廟の名称


「月窟」 勅賜慈眼福海禅師 永平慧玉(印)

「月窟廟」の扁額
 11世玄風は築山御前の扁額を月舟に依頼し、掲げたが、昭和20年焼失し、ここに新たに復元されたのであるが、「月窓」「月屈」と読まれて来た。先住の文献研究の結果を永平寺貫主秦慧玉禅師の校照を請うたがやはり、李白の「渇飲月窟水」を出典根拠とし、「月窟」の扁額を新廟に掲げた。

西来院掲示板

 築山御前廟の名称は 廟前の篇額に書かれている。
・「月窓」(『遠江史蹟瑣談』)
・「月屈」(『遠江古蹟図会』)
・「月窟」:現在の扁額
のどれが正しいか確認したいが、扁額を含め、築山御前廟は太平洋戦争の浜松空襲で焼けてしまったので、確認のしようがない。

『遠江古蹟図会』

『遠江古蹟図会』には、
「是の堂の額の「月屈」の1字、月舟和尚の筆也」
とある。築山御前が亡くなったのは1579年で、開山・月舟和尚は1533年に既に遷化しておられるので、「月舟和尚の筆」ということはありえない。また、築山御前は反逆者であるので、墓はたてられず、許されて霊廟が建てられたのは、江戸時代の100回忌の時、西来院11世・玄風和尚の時である。

Recoの妄想①:「「月屈」の1字、月舟和尚の筆也」だとすれば、それが掲げられていたのは、築山御前廟ではなく、開山堂ではないだろうか。築山御前廟がなかった100年間、開山堂にこっそりと築山御前の位牌が置かれていたのではないだろうか。


 「月窓」説は単なる読み間違いであって、「月窟」と書いてあったのだと思われる。築山御前の研究者として知られる西来院29世・戸田義参(1876-1938)が「月窟」と読み、永平寺76世貫首・秦慧玉禅師(1896-1985)に問い合わせたところ、「その通りであり、出典は李白の「渇飲月窟水」である」とのお墨付きを得たので、現在、新たに「月窟」と書かれた能筆家・秦慧玉禅師の扁額が築山御前廟に掲げられている。

秦慧玉(はたえぎょく):永平寺76世貫首。曹洞宗管長。世称「秦慧玉」、道号「明峰慧玉」、禅師号「慈眼福海(じげんふくかい)」。禅師号は『観音経』の「慈眼視衆生 福聚海無量」より。天海大僧正(慈眼大師)とは別人ですよ。能筆家(能書家)であり、絶筆は国技館の「無尽蔵」。

1.「渇飲月窟水」説批判

 確かに、築山御前の法名は「潭月(清池院殿潭月秋天大禅定法尼)」であるから、月に無関係というわけではない(「潭」は「池」の仏教風言い回し)が、李白の詩「蘇武」の「渇飲月窟水」(渇しては月窟の水を飲み)は、「蘇武は、匈奴に捕えられ、月光が射し込む岩窟に飲食物を与えられずに捨て置かれたが、喉が渇けば雪を溶かして飲み、腹が減れば旗の飾りの毛を食べて生きながらえた」という話であり、築山御前には似合わない。

Recoの妄想②:「渇飲月窟水」に似合う人物が築山御前の横に眠っている。その人物は、徳川家康の異父弟・松平源三郎勝俊(法名「泉月(善照院殿泉月澄清大居士)」)である。松平源三郎勝俊は、武田信玄の人質となり、幽閉されていた。逃げ出したが、裸足で雪山を歩いたので、足の指が凍傷でもげたという。「出典は李白の「渇飲月窟水」である」とすれば、それが掲げられていたのは、築山御前廟ではなく、松平勝俊廟ではないだろうか。築山御前廟がなかった100年間、松平勝俊廟にこっそりと築山御前の位牌が置かれていたのではないだろうか。

 又、松平源三郎君をも此の寺に隠しぬ。初め、故君と今川家と和談の事有りける時、酒井左衛門尉忠次の息女と二人をして駿河へ遣はされけるを、三浦与一と云ふ者、預かり居たりけるに、永禄十一年、氏真朝臣の没落に付き、彼の三浦、甲斐へ伴ひ行きけるなり。さる故によりて、永禄元年二月十八日、信長より信玄の文に、
 其の地におゐて、今川殿へまえまえ差し置かれ候、家康弟、召し置かれ候由、幸之儀に候間、家康、人質に甲府まで召し連れられ、「御心安御用等、仰せ付けらる候様に」と家康も我ら方へ申し越し候条、斯く如きに候。
斯くして、甲斐の下山に、憂き月日を送りておはしましけり。此の源三郎君は、久松佐渡守定俊の子にて、伝通院殿の御腹なりければ、故君とは御同腹の御はらからにてましましける故、松平を給はりて、人質にも遣はし給ひける。然るに、元亀元年午の冬、霜月に、雪踏み分け、甲州下山より山通りを浜松へ欠け落ちし給ひける。「なか路の雪のうちを恙無く帰り給ふ」とて、もろ人、褒め申しけるとなり。されども、雪やけにて、足の指、悉く損なはれ給ひしにより、病となりて、ついに世を早くしおはしましければ、やがてこの寺に隠して、御前の御墓近く埋めけるといへり。

杉浦国頭『曳駒拾遺』西来院の松平源三郎勝俊の墓

2.「月窟」の意味(Reco説)

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