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知立神社から赤日子神社へ

1.「海の民」の東進

 日本国を支えてきたのは農民(農業)だとする「水田中心史観」がありますが、農林水産業──山の民(山守部。林業)、海の民(海人部。水産業)の存在も忘れてはなりません。特に「海の民」は、海で水産物をとるだけではなく、物資を輸送する航海術にもたけた「海洋民」(船上生活をする「漂泊の民」)も含まれていました。

「海の民」として有名なのが、
・北九州(筑前国糟屋郡阿曇郷)の阿曇氏
・南九州(薩摩国阿多郡)の阿多氏
です。

(1)阿曇氏

 阿曇氏(綿津見族、海神族)は、「綿津見大神」こと「豊玉彦命」を祖とする一族で、「阿曇(あづみ)」は、「海人津見(あまつみ)」の転訛とされ、『日本書紀』「応神天皇紀」に「海人の宰(みこともち)に任じられた」とあります。

■『日本書紀』(10巻)「応神天皇紀」応神天皇3年(273年)11月の条
 十一月。処処海人訕哤之不従命。〈訕哤。此云佐麼売玖。〉則遣阿曇連祖大浜宿禰、平其訕哤。因為海人之宰。故俗人諺曰、佐麼阿摩者、其是緑也。
(処処(ところどころ)の海人(あま)、訕哤(さばめ)きて命(みこと)に従はず。則ち、阿曇連(あづみ)の祖(おや)、大浜宿禰(おほはまのすくね)を遣して、其の訕哤(さばめき)を平(たひら)ぐ。因りて海人の宰(みこともち)とす。故、俗人(ときのひと)の諺に曰く、「佐麼阿摩(さばあま)」といふは、其れ是の縁(ことのもと)なり。 )
■『日本書紀』(10巻)「応神天皇紀」応神天皇5年(274年)8月13日の条
五年秋八月庚寅朔壬寅。令諸国、定海人及山守部。
(諸国に令して、海人及び山守部を定む。)
■『古事記』(中巻)「応神天皇段」
此之御世定賜海部山部山守部伊勢部也。
(此の御世に海部、山部、山守部、伊勢部を定め賜ふ。)

 阿曇(安曇)氏は、「綿津見大神」こと「豊玉彦命」の子の穂高見命、もしくは、宇都志日金拆命の子孫です。

 綿津豊玉彦─穂高見命【阿曇氏】   :『新撰姓氏録』
 綿津豊玉彦─宇都志日金拆命【阿曇氏】:『古事記』

 綿津豊玉彦命┬振魂命【尾張氏】
       ├宇都志日金拆命【阿曇氏】
       ├玉依姫命
       └豊玉姫命

■『新撰姓氏録』
「右京神別下」安曇宿禰 海神綿積豊玉彦神子穂高見命之後也。
「河内国神別」安曇連 綿積神命児穂高見命之後也。
「未定雑姓河内国」安曇連 于都斯奈賀命之後也。
■『古事記』
次於水底滌時、所成神名、底津綿津見神、次底筒之男命。於中滌時、所成神名、中津綿津見神、次中筒之男命。於水上滌時、所成神名、上津綿津見神、〈訓上云宇閇〉次上筒之男命。此三柱綿津見神者、阿曇連等之祖神以伊都久神也。〈伊以下三字以音。下效此。〉故、阿曇連等者、其綿津見神之子、宇都志日金拆命子孫也。〈宇都志三字以音。〉其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者、墨江之三前大神。

(2)阿曇氏の東進


 阿曇氏が通った跡には「アヅミ」地名が残されています。「アヅミ」地名で最も有名なのは、中信(長野県中部地方)の「安曇野(あずみの)」でしょう。
 阿曇氏の安曇野までの東進ルートについては、

・北陸道説:北九州から日本海→姫川谷(青木湖から糸魚川に流れる川)
・東山道説:北九州から瀬戸内海→大阪(安曇江)
・天竜川説:北九州から瀬戸内海→愛知県の渥美半島(安曇族の開拓地)

があります。個人的には、建御名方神が逃げる時に使った日本海コース(出雲国→母・高志沼河姫の故郷(越後国頸城郡沼河)→諏訪)や伊勢津彦命が逃げる時に使った伊勢湾コース(伊勢国→矢作川を遡る→諏訪)に注目していますが、「アヅミ」地名の分布を考えると、「北九州から瀬戸内海→愛知県の渥美半島→豊川(飽海河)を遡る」コースが妥当かなと思います。

【参考記事】
1.安曇族の開発【「農」と歴史】
https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/chushin/rekishi/01.html
2.進む安曇野の開発【「農」と歴史】
https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/chushin/rekishi/02.html
さらに詳しく 安曇氏
https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/chushin/rekishi/01_1.html

(3)阿多氏


 阿多氏は、鵜飼を得意とする海人(あま)族で(沖縄では「鵜(ウ)」を「アタ」という)、阿多氏の首長・大山津見神の娘「神阿多都比売」は、「木花開耶姫」という別名で広く知られています。

 大山津見神【山神】─神阿多都比売(木花開耶姫)【浅間神(富士山)】
               ├彦火火出見尊─鸚鴉草葺不合尊─神武天皇
   天照大神─天忍穂耳尊─邇邇芸命                │
                                                                                      事代主神     │
                                                                                             ├媛蹈鞴五十鈴媛命
     三島溝咋耳(賀茂建角身命/鴨建角身命)─三島溝樴姫(玉櫛媛)

 阿多氏の首長は、全国に3000社以上ある山神社(多い順に愛知県311社、静岡県257社、長野県204社)の御祭神・大山津見神です。
 摂津国御嶋(大阪府高槻市三島江)の式内・島鴨神社(日本で最初の三島神社)は、三島県主(あがたぬし)の祖・三島溝咋耳(賀茂氏)が祀った神社とのことです。

   摂津国御嶋(大阪府高槻市三島江)
   式内・三島鴨神社が日本で最初の三島神社
   三島=日本洲(本州)+伊予二名洲(四国)+筑紫洲(九州)
     ↓
   大山祇神社(大三島宮。愛媛県今治市大三島)
     ↓
   三嶋大社(静岡県三島市大宮町)

(4)阿多氏の東進


 大山祇神社、三島鴨神社、三嶋大社で「日本三大三島」「三三島」という。大山津見神は、その神名から「山神」と考えられがちですが、そして、実際にそうなのですが、「三島信仰」においては、『伊予国風土記』に「和多志大神」(渡し(航海)の守護神)で、海の神になっています。太田亮『姓氏家系大辞典』には「三島溝咋耳は大山津見神の系統氏族とも思はるべし」とありますが、「三島氏」の「三島信仰」は、阿多氏の信仰とは異なると思われます。また、伝播ルートも大阪→愛媛→静岡となっており、南九州から始まる「阿多氏の東進」とは別物のようです。

■太田亮『姓氏家系大辞典』「三島 ミシマ」
9.大三島社(前略)三島溝咋耳は大山津見神の系統氏族とも思はるべし。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1123985/54
■『伊予国風土記』(『釈日本紀』の逸文)
『伊予国風土記』に曰く、「宇知(うち/をち)郡に坐す神、御名は大山積神、一(また)の名は和多志大神なり。この神は、難波の高津宮に天の下らしし天皇〔注:仁徳天皇〕の御世に顕れましき。この神、百済の国より渡り来まして、津の国の御嶋に坐しき云々。御嶋といふは、津の国の御嶋の名なり」と見ゆ。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1173165/163
■『三島宮御鎮座本録』
 人皇17代大雀(おおさぎきの)天皇(仁徳天皇御事)御字、詔に依り、大山積皇(おおやまずみすめらの)大神、安芸国霧島より、伊予国鼻繰迫戸に還り奉る。
 人皇32代泊瀬部若雀(はつせべのわかさぎの)天皇(崇峻御事)御字己酉2年、神託に依り、大山積皇大神、播磨国より伊予国小千郡(越智郡)鼻繰迫戸島に遷りぬ。小千益窮之を祭り、但木枝に鏡を掛け、之を祭らしむ。

 阿多氏の東進ルートは、南九州→瀬戸内海→大阪湾→尾張国→伊豆国熱海でしょうね。

2.赤日子神社

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 三島市の三嶋大社、知立市の知立神社、名古屋市の熱田神宮で「東海道三大社」といいます。東海地方の海岸には「海の民」がいたのでしょう。
 尾張氏については別記事に書きましたが、私の説は「大和国→東山道→美濃国→尾張国高倉」と移動した氏族(始祖・天火明命=饒速日命)と、「火上(あゆち潟)を本拠地とする海の民(始祖・振魂命)が熱田で結合して国造家となった」です。

 ○伊豆国一宮・三嶋大社【阿多氏】海人族 始祖=大山津見神
 ○三河国二宮・知立神社【阿曇氏】海神族 始祖=宇都志日金拆命
 ○尾張国三宮・熱田神宮【尾張氏】海人族 始祖=振魂命


 さて、知立神社から三河湾へ向う。目的地は式内・赤日子神社です。
 知立神社の本来の社名は「伊知理生神社」で、「伊」が省略されて「知理生神社」となり、「知理生」を「知立」と2字で書くようになったようです。

 ──「赤日子(赤孫)」はどなたか?

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 赤日子神社の御祭神は、
 ・綿積豊玉彦命(わたつみとよたまひこのみこと)
 ・彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)
 ・豊玉姫尊  (とよたまひめのみこと)
で、「赤日子」とは「綿積豊玉彦」のことだそうです。そして、こちらも「赤孫(あかひこ)」という2字地名になりました。

       綿積豊玉彦命┬振魂命【尾張氏】
             ├宇都志日金拆命【阿曇氏】
             ├───────玉依姫命
             └豊玉姫命   ├神武天皇【天皇家】
                ├─鸚鴉草葺不合尊…伊知理生命
天照大神─天忍穂耳尊─瓊瓊杵尊─彦火火出見尊
          (天孫) (山幸彦)

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 赤日子神社(旧鎮座地の元宮)

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 聖山の磐座

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 赤日子神社


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