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中国人にとっての狐、日本人にとっての狐

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0.狐


■『箋注 倭名類聚抄』「狐」

『考聲切韻』云、「狐[音:胡、和名:岐豆禰]。獸名「射干」也。關中呼爲「野干」。語訛也」。
孫愐『切韻』曰、「狐能爲妖恠。至百歳化爲女也」。

・『考声切韻』には、「「狐」の音読みは「こ」、和名は「きつね」である。獣(けもの)の名で、「射干(しゃかん)」のことである。関中(首都・長安周辺)では「野干(やかん)」と呼ぶ。これは「射干」の転訛(なまり)である」とある。
・唐代の音韻学者・孫愐著『切韻』には、「狐は能(よ)く妖恠(ようかい)と為り、百歳に至りて化けて女と為る也」とある。

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1.中国人にとっての狐


 許慎『説文解字』(中国最古の字典)には、
「狐、有三徳。其色中和。小前大後。死則丘首。謂之三徳」
とある。狐には「三徳」がある。それは、
①その色が中和であること(陰陽五行思想「木火土金水」の五元素のうち中央に位置する土の色である。)
②先端が小さく、後部が大きいこと(顔が細く、尻尾が太い形状が「末広がり」を意味してめでたい。)
③死ぬ時、故郷の丘に首を向けて死ぬこと(故郷を忘れない仁の心を持っている。)
である。

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2.日本人にとっての狐


 日本人にとってキツネは、いたずら好きの動物であり、アイヌ人(原日本人?)もチロンヌプ(キタキツネ)は人に化けて悪戯をする動物だという。
 野生のキツネと遭遇する機会が減った現在の日本人にとっては、キツネといえば、稲荷神(御饌津(みけつ)神)の眷属(神の使い)のイメージが強い。中国のキツネは天帝に仕える動物かもしれないが、日本では、①天照大神(伊勢神宮の内宮の神)が、「日本を豊穣の国にせよ」と豊受大神(伊勢神宮の外宮の神。天照大神の食事を用意する御饌津神)に命じると、豊受大神は、多くのキツネに命じ、稲の種を各地に蒔かせたと言う。
また、キツネが稲荷神(御饌津神)の眷属である理由は、
②尾の色と形が稲穂に似ているから
③キツネが米蔵の米を食べるネズミの天敵であるから
④水田近くによく姿を現すことから田畑の守護神と考えられたことから
⑤キツネの古語は「ケツ」で、「みけつ神」を「三狐神」と表記したことによるとも言われる。

★「キツネ」の古称「キツ」「ケツ」:鳴き声の「ケツケツ」「キツキツ」(『今昔物語』では「コウコウ」、現在は「コンコン」)に神道系の敬称「ネ(禰)」を加えて「キツネ」だという。他の語源説には、
・「来つ寝」[『日本霊異記』『水鏡』]
・「臭い犬」(「キ」は臭、「ツ」は助詞、「ネ」は犬)
・「黄猫」(「キ」は黄、「ツ」は助詞、「ネ」は猫 [『和訓栞』])
・常に黄色いので「黄恒」
がある。
 似た言葉に仏教の経典に出てくる「射干(野干)」があり、日本人はオオカミのことであろうと想像したが、実はジャッカルだという。

★『和訓栞』「狐」
「きつに」ともいふ。(中略)「きつ」とばかりもいへる也。「けつね」ともいへり。(中略)「き」は黄也。「つ」は助辞。「ね」は猫の略なるべし。俗に「狐」を「野干」とす、仏経に「射干」と見えて「狐」とは異れり。

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