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テストによく出る「素腹の后」(『大鏡』)

 この大納言、無心のこと一度ぞのたまへるや。御妹の四条の宮の后に立ち給ひて、初めて入内したまふに、洞院のぼりにおはしませば、東四条の前を渡らせたまふに、大入道殿も、故女院も胸痛く思しめしけるに、按察大納言は后の御せうとにて、御心地よく思されけるままに、御馬をひかえて、
「この女御は、いつか后には立ちたまふらむ」
と、うち見入れてのたまへりけるを、殿を始めたてまつりて、その御族やすからず思しけれど、男宮おはしませば、たけくぞ。よその人々も、 「益なくものたまふかな」 と聞きたまふ。
 一条院、位につきたまへば、御女、后に立ちたまひて入内したまふに、大納言殿の、亮に仕まつりたまへるに、出だし車より扇をさし出だして、 「やや、もの申さむ」 と、女房の聞こえければ、 「何事にかとて、うつ寄りたまへるに、進の内侍、顔をさし出でて、
「御妹の素腹の后いづくにかおはする」
と聞こえかけたりけるに、 「先つ年のことを思ひおかれたるなり。みづからだにいかがとおぼえつることなれば、道理なり。なくなりぬる身にこそとおぼえしか」 とこそのたまひけれ。されど、人柄しよろづによくなりたまひぬれば、事に触れて捨てられたまはず、かの内侍のとがなるにてやみにき。


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