阿仏尼の主な和歌と歌論『夜の鶴』
──阿仏尼は、生涯、何首詠んだのだろう?
『うたたねの記』22首
『十六夜日記』 89首
『安嘉門院四条百首』 100首:「藤川百首」
『安嘉門院四条五百首』 500首X2
★勅撰和歌集 48首 (二条家と冷泉家の対立)
『続古今和歌集』 3首(藤原為家撰)
『続拾遺和歌集』 6首(二条為氏撰)
『新後撰和歌集』 1首(二条為世撰)
『玉葉和歌集』 11首(阿仏尼と親しかった京極為兼撰)
『続千載和歌集』 1首(二条為世撰)
『続後拾遺和歌集』 1首(二条為藤、二条為定撰)
『風雅和歌集』 14首(阿仏尼の孫・冷泉為秀が参画)
『新千載和歌集』 2首(二条為定撰)
『新拾遺和歌集』 3首(二条為明撰)
『新後拾遺和歌集』 1首(二条為遠、二条為重撰)
『新続古今和歌集』 5首
★私撰和歌集
『夫木抄(夫木和歌抄)』59首
『拾遺風体和歌集』4首
・・・
『うたたねの記』22首
0001 人しれず契りし中のことの葉を嵐ふけとはおもはざりしを
0002 これやさは問ふもつらさの数々に涙を添ふる水莖の跡
0003 なげきつゝ身を早きせの底とだに知らず迷はむ跡ぞ悲しき
0004 捨て出し鷲の御山の月ならで誰を夜な夜な恋ひわたりけむ
0005 みちのくの壺のいしぶみかき絶えて遙けき仲と成りにける哉
0006 思ひ出づる程にも波は騒ぎけりうき瀬をわけて中川の水
0007 よとともに思ひ出づれば呉竹の恨めしからぬその節もなし
0008 消え果てむ煙の後の雲をだによも眺めじな人目漏るとて
0009 はかなしな短き夜半の草枕結ぶともなきうたゝねの夢
0010 おく露の命待つ間のかりの庵に心細くも宿る月影
0011 待馴れし故里をだにとはざりし人はこゝまで思ひやはよる
0012 消かへりまたはくべしと思ひきや露の命の庭の浅茅生
0013 越わぶる逢坂山の山水は別れに絶へぬ涙とぞ見る
0014 すみわびて立別れぬる故里もきてはくやしき旅衣かな
0015 思ひいでゝ名をのみ慕ふ都鳥あとなき波にねをやなかまし
0016 これやさはいかになるみの浦なれば思ふ方には遠ざかるらむ
0017 心からかゝる旅ねになげくとも夢だに許せ沖つ白波
0018 忘るなよあさきの柱かはらずばまたきて馴るゝ折もこそあれ
0019 かきくらす雪まをしばし待つ程にやがてとゞむる不破の関守
0020 このたびは曇らば曇れ鏡山人を都の遥かならねば
0021 君もさはよその眺めや通ふらむ都の山にかゝる白雲
0022 我よりは久しかるべき跡なれど忍ばぬ人はあはれとも見じ
『十六夜日記』89首
0001 とゞめ置く古き枕の塵をだに我たちさらば誰か拂はむ
0002 和歌の浦にかきとゞめたる藻鹽草是を昔のかたみとも見よ
0003 あなかしこよこなみかくな濱千鳥一かたならぬ跡を思はゞ
0004 (侍従の返歌)
0005 (侍従の返歌)
0006
0007 つくづくと空なながめそ戀しくは道遠くともはや歸りこむ
0008
0009
0010 きみをこそ朝日とたのめ古郷に殘るなでしこ霜にからすな
0011 (置き手紙への返歌)
0012 さだめなき命はしらぬ旅なれど又あふ坂とたのめてぞ行
0013 うちしぐれ古郷思ふ袖ぬれて行先遠き野路の篠原
0014 いとゞ猶袖ぬらせとや宿りけんまなく時雨のもる山にしも
0015 旅人はみなもろともにあさたちて駒打わたすやすの川霧
0016 むすぶ手ににごる心をすゝぎなば浮世の夢やさめが井の水
0017 我が子供君につかへんためならで渡らましやは関の藤川
0018 ひまおほきふはの關屋はこの程の時雨も月もいかにもる覽
0019 旅人はみのうちはらふ夕暮の雨にやどかるかさぬひの里
0020 まもれたゞ契結ぶの神ならばとけぬ恨にわれまよはさで
0021 片淵の深き心はありながら人めつゝみにさぞせかるらん
0022 假の世のゆきゝとみるもはかなしや身を浮舟を浮橋にして
0023 一宮名さへなつかしふたつなく三なき法をまもる成べし
0024 祈るぞよわが思ふこと鳴海がたかたひく汐も神のまにまに
0025 なるみがたわかの浦かぜ隔てずはおなじ心に神もうくらん
0026 みつ汐のさしてぞきつる鳴海がた神やあはれとみるめ尋て
0027 雨風も神の心にまかすらんわが行さきのさはりあらすな
0028 浜千鳥啼てぞさそふ世中に跡とめむとは思はざりしを
0029 こととはむ觜と足とはあかざりし我住かたの都鳥かも
0030 はるばると二村山を行過て猶すゑたどる野べの夕やみ
0031 さゝがにのくもであやうき八橋を夕ぐれかけて渡りぬる哉
0032 時雨けり染る千入のはては又紅葉の錦色かはるまで
0033 待けりな昔もこえし宮地山おなじ時雨のめぐりあふよを
0034 ぬしや誰山の裾野に宿しめてあたりさびしき竹の一村
0035 すみわびて月の都を出しかどうき身はなれぬ有明の影
0036 旅人のおなじ道にや出つらん笠うちきたる有明の月
0037 我ためや浪もたかしの浜ならん袖の湊の波はやすまで
0038 白浜に墨の色なるしまつどり筆もおよばゞゑにかきてまし
0039 鴎ゐる洲崎の岩もよそならず浪のかけこす袖にみなれて
0040 浜松のかはらぬかげを尋きてみし人なみに昔をぞとふ
0041 水の淡の浮世にわたる程をみよ早瀬の小舟棹もやすめず
0042 たれかきてみつけの里と聞からにいとゞ旅ねぞ空恐ろしき
0043 越くらす麓の里の夕闇にまつ風おくるさやの中山
0044 雲かゝるさやの中山こえぬとは都につげよ有明の月
0045 わたらむと思ひやかけし東路に有と計はきく川の水
0046 思ひいづる都のことは大井河幾瀬の石のかずもおよばじ
0047 我が心うつゝともなしうつの山夢にも遠き昔こふとて
0048 つたかえでしぐれぬひまもうつの山涙に袖の色ぞこがるゝ
0049 なほざりにみるめ計をかり枕結びおきつと人にかたるな
0050 清見がた年ふる岩にこととはむ波のぬれ衣幾かさねきつ
0051 ならはずよ余所に聞こし清見潟あら磯浪のかゝるねざめは
0052 誰が方になびきはてゝかふじのねの煙の末のみえずなる覽
0053 いつの世の麓の塵かふじのねを雪さへ高き山となしけん
0054 朽はてし長柄の橋をつくらばやふじの煙もたゝずなりなば
0055 冴わびぬ雪よりおろすふじ河の川風こほる冬の衣手
0056 心からおりたつたごのあま衣ほさぬ恨と人にかたるな
0057 あはれとやみしまの神の宮柱唯こゝにしもめぐりきにけり
0058 おのづからつたへし跡も有ものを神はしるらんしき嶋の道
0059 尋きてわがこえかゝる箱根路を山のかひある知べとぞ思ふ
0060 玉くしげ箱根の山をいそげども猶明がたき横雲の空
0061 ゆかしさよ其方の雲をそばだてゝよそになしぬる足柄の山
0062 東路のゆさかを越てみわたせばしほ木ながるゝはや川の水
0063 あまのすむその里の名も白浪のよする渚に宿やからまし
0064 浦路ゆく心ぼそさを波間より出てしらする有明の月
0065 あま小舟漕行かたをみせじとや浪に立そふ浦の朝霧
0066 立はなれよもうきなみはかけもせじ昔の人の同じ世ならば
0067 (宇津山峠で送った手紙の返歌)
0067 (宇津山峠で送った手紙の返歌)
0068 巡りあふ末をぞたのむゆくりなく空にうかれし十六夜の月
0069 (大宮院)
0070 思ひやれ露も時雨も一つにて山路分こし袖の雫を
0071 (爲兼)
0072 旅衣浦かぜさえて神なづきしぐるゝ空に雪ぞふりそふ
0073 消えかへりながむる空もかきくれてほどは雲ゐぞ雪になりゆく
0074 一かたに袖やぬれまし旅衣たつ日をきかぬ恨なりせば
0075 (安嘉門院)
0076 心から何恨むらむ旅衣たつ日をだにも知らずがほにて
0077 夜もすがら涙もふみもかきあへず磯こす風に獨おきゐて
0078 いたづらにめかり塩やくすさびにも恋しやなれし里の蜑人
0079 (姉妹の返歌)
0080
0081 朧なる月はみやこの空ながらまだきかざりし波のよなよな
0082 (返歌)
0083 いかにしてしばし都をわすれ貝なみのひまなくわれぞくだくる
0084 知らざりしうらやま風も梅が香はみやこに似たる春のあけぼの
0085 はなぐもりながめてわたる浦風にかすみたゞよふはるの夜の月
0086 あづまぢの磯やま風のたえまよりなみさへ花のおもかげにたつ
0087 みやこ人おもひも出でばあづまぢの花やいかにと音づれてまし
0088 (返歌)
0089 (返歌)
0090 (返歌)
0091 (返歌)
0091 いたづらにあまの鹽燒煙ともたれかはみまし風に消なば
0092 (返歌)
0093 たのもしな身にそふ友と成にけりたへなる法の花の契りは
0094 見し世こそかはらざるらめ暮はてし春より夏にうつる梢も
0095 夏衣はやたちかへて都人今やまつらん山ほとゝぎす
0096 (返歌)
0097 (返歌)
0098 忍びねはひきのやつなる郭公雲ゐにたかくいつかなのらむ
0099
0100 それゆゑにとび別れてもあしたづの子を思ふかたはなほぞ悲しき
0101 宮こまでかたるも遠し思ひねに忍ぶ昔の夢のなごりを
0102 はかなしや旅ねの夢にまよひきてさむればみえぬ人の俤
0103 (返歌)
0104 (返歌)
0105 (為相)
0106 恋しのぶ心やたぐふ朝夕に行てはかへるをちのしら雲
0105 (為相)
0106 秋ふかき草の枕に我ぞなくふりすてゝこしすゞ虫のねを
0107 これを見ばいかばかりかと思ひつる人にかはりてねこそなかるれ
0108 (為守)
0109 かりそめに立別ても子をおもふ思ひをふじの煙とぞみし
0110 (権中納言の君)
0111 かよふらし宮この外の月みても空なつかしきおなじながめは
0112 しきしまや やまとのくには あめつちの ひらけはじめし
むかしより いはとをあけて おもしろき かぐらのことば
うたひてし さればかしこき ためしとて ひじりの御世の
みちしるく ひとのこゝろを たねとして よろづのわざを
ことのはに おにがみまでも あはれとて 八しまのほかの
よつのうみ なみもしづかに をさまりて そらふくかぜも
やはらかに えだもならさず ふるあめも ときさだまれば
きみぎみの みことのまゝに したがひて わかのうらぢの
もしほぐさ かきあつめたる 跡おほく それがなかにも
名をとめて 三代までつぎし ひとの子の おやのとりわき
ゆづりてし そのまことさへ ありながら おもへばいやし
しなのなる そのはゝき木の そのはらに たねをまきたる
とがとてや 世にもつかへよ 生ける世の 身をたすけよと
ちぎりおく 須磨とあかしの つゞきなる ほそかはやまの
やまがはの わづかにいのち かけひとて つたひしみづの
みなかみも せきとめられて いまはたゞ くがにあがれる
いをのごと かぢを絕えたる ふねのごと 寄るかたもなく
わびはつる 子をおもふとて よるのつる なくなくみやこ
出でしかど 身はかずならず かまくらの 世のまつりごと
しげゝれば きこえあげてし ことのはも えだにこもりて
うめのはな 四とせのはるに なりにけり ゆくへも知らぬ
なかぞらの かぜにまかする ふるさとは のきばもあれて
さゝがにの いかさまにかは なりぬらむ 世々のあとある
たまづさも さてくちはてば あしはらの みちもすたれて
いかならむ これをおもへば わたくしの なげきのみかは
世のためも つらきためしと なりぬべし ゆくさきかけて
さまざまに 書きのこされし ふでのあと かへすがへすも
いつはりと おもはましかば ことわりを たゞすのもりの
ゆふしでに やよやいさゝか かけてとへ みだりがはしき
すゑの世に あさはあとなく なりぬとか いさめ置きしを
わすれずば ゆがめることを またたれか ひきなほすべき
とばかりに 身をかへりみず たのむぞよ そのよを聞けば
さてもさは のこるよもぎと かこちてし ひとのなさけも
かゝりけり おなじはりまの さかひとて ひとつながれを
汲みしかば 野なかのしみづ よどむとも もとのこゝろに
まかせつゝ とゞこほりなき みづくきの あとさへあらば
いとゞしく つるがをかべの あさひかげ 八千代のひかり
さしそへて あきらけき世の なほもさかえむ。
0113 永かれと朝夕いのる君が代を大和言葉に今日ぞのべつる
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