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瀬と水脈(みお)

せ【瀬】
①川の歩いて渡れる程度に浅い所。浅瀬(あさせ)。対義語:淵(ふち)。
②川の急な流れ。早瀬(はやせ)。

「瀬踏み」の「瀬」は①、「瀬織津姫」の「瀬」は②である。

往古、浜名湖(静岡県の西端の湖。河川法上は都田川の巨大な淵)の南半分は土地であったが、大地震で湖になった。このため、南半分は遠浅で、引き潮の時は湖底が現れる箇所もある。そこでは潮干狩りが行われる。(浜名湖にごみを捨てると、海に放出されず、北半分の深い部分に溜まってヘドロと化す。)

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 大地震後、浜名湖に注ぎ込んだ都田川の水は「今切口」から太平洋(遠州灘)に流出する。今切の東岸に舞坂宿、舞阪漁港、西岸に新居宿、新居浜がある。新居浜には清水みのる詩碑がある。

    新居浜をうたう
            清水みのる
  ゆるやかに弧を描いて
  新居浜はゆったりと碇瀬を抱く

 ──碇瀬(いかりぜ)???

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 実は、今切には「碇瀬」「八兵衛瀬」などと呼ばれる浅瀬がある。
 浅瀬と浅瀬の間の深い部分を「水脈(みお)」といい、舟の通り路である。瀬に舟が乗り上げてしまうことを座礁という。座礁を避けるため、瀬の端に無数の杭が打たれる。この瀬の位置を示す杭を「水脈つ串(澪土筆、澪標。みおつくし)」という。大阪湾には無数の航路標識「水脈つ串」があり、現在、大阪市の市章となっている。

 舟は水脈つ串と水脈つ串の間を通る。水路(水脈)の水脈つ串は、道路でいえばガードレールに相当する。
 水脈つ串は、「ここを通りなさい」という安全信号ではなく、「ここは標柱を立てられる浅い場所だから近づくと座礁する」という危険信号だと理解していないと、次の万葉歌の意味が分からないであろう。

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■『万葉集』(巻14)「譬喩歌」3429番歌
等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎
遠江引佐細江の澪標 吾を頼めてあさましものを

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【意訳】遠江国引佐郡の細江(都田川河口の細長い港)の浅瀬を示す水脈つ串よ、聞いておくれ。彼の方から私に言い寄ってきた。それは深い恋心からだと思って受け入れたが、浅かったんだよ。あなた(水脈つ串、危険信号)が立っていてくれたなら受け入れなかったのに。

【異訳】『万葉集』の編集者は、「譬喩歌」(水脈つ串を何かにたとえた歌)と思っているから、訳もそうあるべきである。
 「あさまし」の用例は『万葉集』ではこの3429番歌のみで、意味不明。一説に「浅増し」で「増々浅くなっていく」だという。水の流路(水脈)が変って、深かった所がどんどん浅くなってきている。そのため、今の水脈つ串は役に立たなくなっていて、信用できない。男心も水路の様に変化するもので、信用できない。私に頼んでおいて(言い寄って来ておいて)、「釣った魚に餌はやらぬ」と、愛情がどんどん薄くなってきている。

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 碇瀬に立つ鳥居型の観光タワーを見て、ふと
「日本武や宮箕媛が見たあゆち潟の風景もこんな感じだったのかな」
と思った。

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