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シュウスイちゃんとの思い出

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大切なパートナー「シュウスイちゃん」との思い出。
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#小説

Unus Non Sufficit Orbis.

 またこの季節がやってきた。ショーウィンドウに反射しているのは、色の薄い唇を、寒さを耐えるようにくっと結んだ男。彼はきっと一人で冬を越すに違いない。  僕にもかつて、一緒に過ごせる人がいた。今でもコンビニへ入ると、彼女の持ってきてくれた肉まんのことが目に浮かぶ。僕らはあの山小屋で、一生を終える覚悟だった。けれど、ほんの些細なことをきっかけに、彼女は雪解けを待たずにどこかへ去ってしまった。  いや、正確には僕がほんの少し、小屋から出て過ごしている間に、彼女もどこかへ行ったのだ

Unus Sufficit Orbis.

 隙間風のせいか、あるいは寝床が変わったせいだろうか、今朝は久々に早起きだった。 「ん、おはよ~」  どこか猫を彷彿とさせる伸びをしてまどろんだ眼であたりを見まわす。シュウスイちゃんも段々と昨夜のことを思い出してきたようで、少しはねた髪を撫でつつ、こちらを振り返る。朝からこんなにも笑顔でいられるのは、彼女の他に存在しないのでは。  ここは物置として今は長らく使われていなかった小屋。  昨晩、僕はついに社会から逃避行することに決め、遺書をのこして自宅を去った。この世を去る決心