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破壊せよ、とアイラーは言った 中上健次

タイトルだけで買った本。確かネットで「ジャズ 小説」と調べてヒットしたのが五木寛之の「さらばモスクワ愚連隊」とこの本。このタイトルを見たとき、「おお、語感の良い題名だな」とまず思い、次に作家が中上健次ということを知って「買い」と思った。中上健次の本は一冊も読んだことがなかった。いつか読みたいとは思っていたので、邪道ではあるが、エッセイからでもその文体を味わおうと購入を決めた。もちろん書店には売っていないのでAmazonで買った。送料込みで600円くらいだったか。

どうして「ジャズ 小説」なんかでググっていたかというと、ちょうど新しいジャズアーティストを発掘したいと思っていたからだと思う。ポール・デズモンドやスタン・ゲッツ、リー・モーガンが僕の趣味だが、一定の周期でそれらが全部同じ音に聴こえることがある。そういう時に何を求めているかというと、前衛的な音である。この周期は小説でも映画でもお笑いでも一緒。

この本を知るまで、アルバート・アイラーの存在を知らなかった。というかフリー・ジャズというものをまともに聞いてこなかった。コルトレーンは定期的に聞いていたから耳にしたことはあったんだろう。でも多分、フリージャズのあのキーキーうるさい音が流れるたびにスキップしていたんだと思う。だからフリージャズを意識的に聴くことがなかった。

でも歳を取ったからか(むしろ逆?)、最近は面白さよりも「新しさ」を音楽や本に求めるようになってきた。本を買う前からApple Musicでアイラーを聴いてみたら、どうしてかあの甲高くてフラッフラのサックスが心地良かった。「聴ける!」と思った。耳が痛いのは痛いんだが、それよりも自分が「アイラーを聴いている」というだけで悦に入ることができたのだ。

中上健次もこの本で大体そのようなことを書いていた。ブルーベックやMJQを否定し、アイラーやコルトレーンを崇拝している。実際、タイトルのアイラーよりもコルトレーンに夢中だったみたいだ。

にしても、このタイトルは中上健次が直感的に思いついたものだと読んでいてわかる。アイラーを聴いていると、他のジャズとは全然違うなあと感心する。同じ派閥のドン・チェリーやセシル・テイラーも聴き始めたが、何かが違う。アイラーが60年代の他のアーティストに言いたかったことがよくわかり、それは中上健次が70年代の文壇に思っていたモヤモヤというワケだ。

中上健次の文体はそこまで好きになれなかった。
1つ、学習があった。僕は昔の本が好きだけど、田舎の本は合わないということだ。東京やパリ、ニューヨークを舞台に書かれたものが望ましい。これは単純に共感がしやすいからだろう。

この本の中で一番「イイね!」と思った文章。
「つまり齢32になって、私は気付いたのである。自分の抱えた小説が、ブルトンやユイスマンスに代わって、読者に、破壊せよ、錯乱せよ、と語りかける番だと」・・・115ページ

本屋に行っても読みたい本がなく、レコード屋に行っても聴きたいレコードがないとき、じゃあ自分がやればイイじゃないかと思うことがある。それを中上健次も思っていたということ。作中には中上健次が良いと思う作家の例でバタイユやポール・二ザンの名前も出てきた。同じことを考えていて、少し嬉しかった。


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