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晶文社の「今日の文学」を集める 

これから、晶文社の「今日の文学」シリーズを集めようと思う。「日本の古書店」というサイトで買える。全国の古書店がそこに登録していて、注文の手続きをやってくれる。実際に古書店に行って買うのが一番だが、探したところ近場にはほとんど「今日の文学」シリーズを置く古書店はなく、仕方ない。

この記事を出すのはデメリットがある。これを読んで「今日の文学」シリーズを買う人がいるかもしれないということだ。シリーズは全部で10冊近くあるが、見たところ全国にはもうそれぞれ1、2冊しか存在していない。それを先に買われると、僕はもう一生手に入れることができない。

しかし!そもそもこの記事を読む人が何人いるのだ? 読んだとして、送料をかけてまでこの本を買う人がどれだけいるのか?……と思えば安心だ。
それよりも僕はこの記事を書くことで、1年後くらいに誰かがここにたどり着き、「先にやられた……」と思わせたい。記事のネタにもなるし。

一冊目は「街の草」を読んだ。これは図書館で借りた。
二冊目はジョルジュ・バタイユの「青空」だ。奈良県の「水たま書店」さんに発送してもらった。気持ちのいい店名。二日くらいで届いた。


この「今日の文学」シリーズは、フランスを舞台にした青春、革命がテーマらしい。刊行は1,960年代後半。当時の晶文社の編集者がこれを企画したわけだ。僕は就活で晶文社なんか見向きもせず講談社、集英社、新潮社…なんてバカにみたいに大手を受けまくったが、今となってはこういう鋭い企画が通るような会社で働くのが一番だと思う。給料、結婚、マイホームという現実的な誘惑が革新的な文学へのモチベーションを下回れば、という話だが……


今回の「青空」をひとことで表すと、「よし、このシリーズは読む価値がある!」だ。というのも、作者が違うのにテーマの芯が全く同じである。
訳者も違うが、文体は完全に統一されている。特長として
・短く、散文的に
・会話のカギかっこを使わない

この2点は、晶文社の編集者が企画会議でモットーにしたのだろう。街の草の文体がすごく良かったので、それがもう一度味わえて嬉しかった。このシリーズは文体と情熱だけで読む本。だからブレることはないだろう。つまらなかったらどうしよう、という心配がない。

さて、「青空」の内容の話。先に言うが、これは大事ではない。

小説はどれだけ暗くとも、できるだけ明るく振る舞う方がいい、というのが僕の考えだ。「街の草」と「青空」の一番の違いは、主人公のネガティブ思考だった。「青空」の語り手アンリは、書き出しからもう病弱で弱音を吐きまくる。数ページ読んだだけで僕はもうこれを「ネガティブ小説」と分類する。「街の草」では主人公のピエールは、ネガティブでもポジティブでもなくあくまで俯瞰の姿勢。自分語りではなく周りの人物の人間観察がメイン。特にファンファンというまだ精神的に幼い若者を滑稽に書くことで、小説自体が明るいものとなっている。ここにガスカールという作家のタフさが見える。バタイユはすぐ泣く。

しかし内容の面白さは二の次。「青空」は十分、このシリーズのよさを証明してくれた。にしても、河出書房あたりはこういう企画に取り組んでもよさそうなものだ。しかし編集側の目線で見ると、長期的な企画だし、現代の読者を考えると、わりに合わないかもしれない……

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