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「オン・ザ・ロード」ケルアック

ジャズを聴いていると、リズムのある小説が読みたくなるものだ。僕の中でリズムの小説=ビートニクであって、まだ読んでないけどずっと気になっていたビートニク=ケルアックのオン・ザ・ロードにすぐ結びついた。
何となくみんな読んでいるイメージだったので、それが気がかりで手を出さなかった。でもいつかは読まないとずっと気になったままだし、最近聴いている音楽との相性もよさそうだったので、梅田のジュンク堂本店に買いに行った。その前に3店舗(紀伊国屋、ブックファースト、ブックスタジオ)を回ったが、意外にも在庫がなかった。

僕が何よりも惹かれたのは、この小説が3週間で書かれたということだ。文庫にしても結構なボリュームだが、これを3週間で書いたとなると、毎日寝る間も惜しんで執筆されたことが分かる。僕としては、そのグルーヴを感じることが一番の目的だった。

さて、この本は所詮他人の旅行記。何の仕掛けもないので、読者は残りのページ数を見てうんざりしがちだ。僕も何度かその瞬間があったが、262ページの描写で、僕には「ああ、ケルアックが他の新人作家を置いてけぼりにする理由がコレか」と思った箇所がある。車の中、メリールウ(ブロンドの美女)がディーン(主役)を痛ましいほどの愛情で見つめるシーンだ。この文がなければ、以降、僕はこの小説をタダの紀行文として読み進めたかもしれない。しかしここでケルアックの内側から出た野心とか嫉妬をまとめて感じることができた。僕には、その一文だけが妙に温度感が違うように見えた。

第3部、ジャズのシーンは一番ノリノリで書いたんじゃなかろうか。ジャズの演奏を書いた小説はいくつもあるが、なんというか、「そのまま」書かれているのが新鮮で、一番良いと思った。「イー!ヤー!イー!ヤー!」「アー・ハアア!ドカーン、キック、よお!」……一見馬鹿みたいに見えるけど、なんせ3週間で書かれた本だ。校正なんてないし、するだけ無駄だろう。

ディーンが一瞬でアメリカに帰るラストも良かった。移動している時間は何も考えなくても良いから楽。趣味・散歩の男が多いのはこういうことだ。

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