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ピエール・ガスカール「街の草」


2021年秋のブルータス村上春樹号でトップバッターで紹介されていた本。ジュンク堂や書店はもちろん、10近くの図書館に行っても扱ってなくて、だんだん探すのもめんどくさくなった。

最近その特集の焼き回しの特集がブルータスで出た。立ち読みしてやっぱり読みたいかもと思い、大阪の図書館を調査。西長堀の大阪市立図書館で発見。書庫から持ってきてもらった。

内容は、1930年代のパリの若者を書いたもの。「街の草」というタイトルから想像していたもの通りだった。気持ちのいいタイトルだ。

率直な感想。これまでに読んだ本の中でも5本以内に入るくらい面白かった。

内容は面白くない。面白くないというか、内容はどうでもいい。文体が新鮮で常に発見があった。一番の特長は言い回しの独特さ。これに尽きる。こういう若者の群像を描いた小説はいくらでもある。じゃあどこで差ができるかというと文体である。登場人物全員が「こんな喋り方するやつおらんぞ」というキザな喋り方をする。それがだんだんと癖になってくる。文体がメインの小説なので小説の勢いがブレることがなかった。
好感が持てたのは、作者が思っていることを全部は書いていないところ。特に会話文。核のセリフが抜け落ちているので、脈絡のない会話文に聞こえる。リズムのためである。作者ピエール・ガスカールはリズムのことしか考えてないように見える。だから200ページを読み終え、覚えている内容はほとんどない。ぐいぐいと読ませられ、気付いたら「訳者のあとがき」になっていた。

内容がないと言っても、作者の性格がよく表れているので、それを軸に読んでいるとテーマははっきりとしている。文学、絵、俳優、音楽…で有名になりたいが、結局部屋でうだうだしているだけで、口だけで、何もしない。若い時は野心があるけれど、歳をとると結婚、就職、安定のことを考え出す。最後に残ったのは主人公の「ぼく」とボードレール好きの「ファンファン」だけ。「ぼく」も昔のギラつきはもうない。

ヘミングウェイに影響されてるようにも見える。ぼくとファンファンはやたらとスペインに行きたがる。「ぼく」が途中から新聞の編集をし始める。作者もそうだったらしい。ヘミングウェイも記者だった。

とにかく好感の持てる作家だった。篠田氏の訳もとても良い。篠田氏が訳した本ならなんでも読んでみたいと思う。久しぶりに2度読みたくなる本を見つけた。自分の本棚に置いておきたいが、Amazonで見ると10000円…



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