出版社バイト(編集)の面接

2020年11月末。大学4年の冬。僕はその頃一時間に一回くらいネットで「出版 アルバイト」「編集 小説」と検索していたので、どの出版社の募集も投稿されて半日以内には目を通していた。僕が入った出版社はインディードなどには掲載しておらず、ホームページでのみ募集要項をあげていた。それでも僕は「インディード」「タウンワーク」などに加え、気になる出版社のホームページも3時間に一回くらいは訪問していたので、受かった会社の募集内容にもわりと早く気づくことができた。
内容は「編集バイト 小説など」。僕はこれを見るなりすぐに履歴書を書いた。気づいてから数時間以内に書類を送ったと思う。そこからは「不採用」のメールが来ていないかを15分に一回確認する。その頃僕はスーパーのバイトをしていたので、バックヤードに入っては受信フォルダを開いていた。
書類選考が通ったとのメールが来たのは翌日だった。ズームでの面接の日程が送られてきて、そのリンクを見て初めて僕は書類通過したことを実感できた。面接日も結構すぐだった気がする。あまり覚えていないが、長くて1週間以内だったと思う。

面接官は3人だった。これまで何度も面接を受けてきたが、その3人ほど威圧感のある空間はなかったと思う。怖いとかそういうのではない。この人達が本当に出版社の編集長やら課長やらというのが伝わり、僕はここを絶対に落とせないという不安から来る威圧感だったろう。


まず聞かれたのは「なぜウチで働きたい?」だ。当然である。その質問。僕は「大学4年の冬なのに何でバイトに申し込んでるの?」と捉えた。僕は正直に話した。
出版社に新卒で入りたかったけれど全部落ちた。それでもそれ以外に思いつかないので、長い目で見て、バイトからでも出版という業界と繋がっている方が、あとあと近道になると思う…こんなこと感じだ。

その言い分に3人は納得したようだった。それ以外はまずないだろう。君が申し込んだのはバイトで、編集という業務にそれほど関われるわけじゃない、と言われた。それでも構わない、と僕は言った。本当にそれでも構わなかったのだ。今僕と同じ気持ちの大学4年生は理解してくれると思う。

その後は砕けた会話になった。作家で誰が好きなの?と聞かれた。僕は好きな作家を挙げた。
「じゃあ純文なんだね」と1人に言われた。その言葉がこれまで受けた面接史上1番嬉しかった言葉だ。この人達は僕の気持ちをよくわかっているんだろうな、という実感が確かにあった。

別の1人が村上春樹の話に興味をもってくれた。その人はその中でも1番強面だった。
「村上春樹は長編よりも短編が冴えると思うんだよね」
その意見には120%反対だったが、適当に同意しておいた。面接で自分の趣味を長々と話すと落ちることはそれまでの経験でよく分かっていた。
面接は30分くらいだったと記憶している。それはとても楽しい面接だった。そこでしっかりと感じたのは「編集者は編集者の顔になるんだな」ということだった。

結果もすぐにきた。実質初めての「当選メール」だったので、僕はそれをすぐに母に報告した。バイト決まったから、東京に内見しに行ってくる、と。

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