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新鮮な文体が欲しい人

のために、晶文社の「今日の文学」シリーズは有効だろう。「小説を面白くするためには、こういうやり方もあるのだ」と教えてくれる。

今回読んだ「ジャズ・ストリート」も、これまでと同様、筋のない小説だった。この小説の帯には「盲目の黒人がたどった苦闘の道」とある。僕は「今日の文学」シリーズに筋のない小説を求めていたので、読む前はあまり気が乗らなかった。盲目の黒人ミュージシャンなんて、ちょっとキャラが濃いではないか。シリーズ読破の目標のためだけに買った。


しかし読んでいるうちに、このシリーズが与えてくれる快感を思い出した。やはり文体が良い! 文体で勝負してくる感じが好印象。小説の内容がかすんでしまうほど、このシリーズは文体にこだわっている。

何がそんなに良いのか? 僕が一番好きなのは突拍子のなさだ。203頁の、主人公と後輩青年との会話文。気になる女の子について話し合うシーン。普通の会話の中でいきなり
「何かありますね!」
と後輩が言う。うまく説明できないのがもどかしいが、こんな言い方は普通はしない、ということが言いたい。「気になってるんですか?」とか「惚れちまったんですか?」とかならわかるが、「何かありますね!」というのは不自然だ。こういう、微妙にズラした言い回しがこの小説の中では連発される。


これは新しいやり方だと思う。僕はこの「今日の文学」を読む上で、話の展開など気にしていない。「次にどんな言い回しが来るのか?」だけだ。今回は盲目のジャズマンがたまたま主人公だったけど、主人公なんて誰でも良い。文体のアイデアがもっと欲しいのだ、こちらは。

主人公が「放っておけない奴」というのが好ましい、というのが純文学の基本。その考えは僕も納得している。しかし、それが書けない人が大半だ。そんな人達のために、「いやいや、個性的な文体で書けばいいだけよ」というのが、このシリーズ。僕と同じような人がこっそり残り少ない在庫を荒らしていなければいいけど……


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