見出し画像

最後のニュース 

 今年の夏も大変な暑さになりそうだ。札幌といえども油断はできない。
 毎日、新聞の記事を読み、テレビのニュース番組を見ているが、最近報道されたいくつかのニュースを見て、数年前に書いたエッセイを思い出した。いじめによる自殺、SNSが関わる殺人、終着の見えない戦争……。

        原文ママ
 車を運転していたら、FM放送で井上陽水の歌が流れているのに気づいた。久し振りに何曲か聞けて懐かしい。若い頃は大のファンで、コンサートにも何度か出向いた。
 ♪忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れみんな泣いた後でだれを忘れ去ったの……。
 初めて聞く歌だった。米国の人種問題を思い浮かべ、政治色の濃い歌かなと感じた。
 新しい曲を創り歌い続けているのだと知って、一気に昔の気持ちに戻る。一度聴いただけで心に沁み入る声と詩。
〈機関銃の弾を体中に巻いてケモノたちの中で誰に手紙を書いているの……〉いつもどこかに、絶えることのない戦争がある現実。
〈親の愛を知らぬ子供たちの歌を 声のしない歌を 誰が聞いてくれるの……〉最近、裁判になった札幌の幼女の顔が目に浮かぶ。
〈世界中の国の人と愛と金が 入り乱れていつか混ざり合えるの……〉米国大統領選挙? 宇宙開発?
いくつかのフレーズの後に♪今あなたにgood-night ただあなたにgood-bye。
 家へ戻ってからこの歌「最後のニュース」について調べてみた。1989年、「筑紫哲也NEWS23」の初代エンディングテーマ曲とある。
 30年以上前の作品だった。今でも現実味をもって迫る。人は過去も未来も変わらない性《さが》に支配されているのだろうか。一日の最後のニュース番組のために作ったというこの曲。人の犯す罪悪はどれも、いつも「最後ではないニュース」と聴こえてしまう。
  2020年11月20日


 4年前、この歌に思い描いた心情は、今もほとんど変わらない。
 絵に描いたように繰り返されている、毎日の様々なニュース。悲惨さをやや増しているように見えなくもない。
 地球規模のグローバル化といわれて久しいが、今では誰もが、手に取るように世界のニュースを見ることができる。世界を身近に、あるいは小さく感じている人が増えているだろう。世界の悲惨も身近になった時代。
 それでも、希望や安心感、意欲といった感性は失われず存在していると思いたいが。
 この歌には陽水によって、30年経っても変わらぬ人々の特性が描かれている。陽水が持つ先見の明なのか、悟りなのか、諦念なのか。会えたら聞いてみたいところだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?