案件日記

【十一月二十六日】友人のKと買い物。昨日、自分でドアの外に防犯カメラを取り付けたという。春先から何度か、夜半に誰かが部屋のノブや鍵をガチャガチャさせた、という話は聞いていた。二重ロックのアパートだから住人だろうか。酔っ払いか認知症?と二人で話していた。忘れたころに起こり、半年過ぎても続いている。寝入りばなに起こされると眠れなくなるのが腹立たしいと対策を取ったのだ。

【十二月一日】Kとジムで会う。また夜中にやられたと映像を見せてくれた。中年の男。顔ははっきり見えない。ドアを開けようとノブを引っ張ったり、カギをこじ入れようとしている。カメラを見上げて階段のほうへ消えた。「今朝、管理人に相談したら『こちらではどうしようもないので警察に届けるように』といわれ、近くの交番へ通報したの」という。二人の警官が来て画像を確認。同じことが起きたらすぐ連絡するようにと直通の電話番号を渡されたそう。「決まって夜中だから音が大きく響くの。朝まで眠れないのがつらい」と普段になく眉間に皺が寄る。確かに変だ。

【一二月八日】Kから電話。昨夜また起きたので交番に連絡したら、生活安全課の刑事が来て画像をコピーし、色々聴かれて書類にサインしたそう。「案件になったので避難してくれって。そっちへ行っても良い?」「もちろん」と応え急いで客間の準備をした。一時間後、警察のワゴンで送られて来た。「捜査して解決するまでアパートへは絶対帰らないように。状況がはっきりしたら連絡します」と担当刑事。二人で頭を下げワゴンを見送る。回数が増えているのが不気味だ。

【十二月十二日】 担当者から「結果が出た」とKに電話があった。スピーカーホンで聞く。真上の部屋の単身赴任の住人男性で、酔っ払って帰ってきて何度か間違えたのを認め、大変恐縮している。男性の職場や家族に連絡を取り状況確認、本人には厳重注意したという。「もう部屋へ戻ってよいです。また何かあったらいつでも連絡をください」担当刑事の言葉が優しい。一件落着。Kは当分防犯カメラは外さないという。酔っ払い相手のから騒ぎではない。おひとりさまでなくても自己防衛には糸目をつけない世の中なのだ。

 

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