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第59回 一条天皇の行幸

生まれた敦成親王の家来に、香子の弟、惟規が漏れたのは香子にとって意外であり軽い落胆でした。
「まああの時の失態を考えれば仕方ないけれど・・・」
勅使として土御門殿に来ながら、振る舞い酒を馬鹿正直に呑んで酩酊してしまったのが関係してしまったのかとも思いました。しかし、
「皇子様が産まれればもう私には用はないのだ。もともと主上の気を引くために私を彰子様に付けたのだから・・・」
香子は何となくこの人事に、正室倫子の発言が入っているような気がしました。

『源氏の物語』の完結を急がねばなりませんでした。
「最後はどういう形で締めくくろうかしら。目出度い感じで終わらなければならないし・・・」
香子は先月10月16日、一条天皇が土御門殿に行幸された事を思い浮かべました。皇子誕生から1か月で、わざわざ主上が中宮と皇子に会うために来られたのでした。もちろん土御門殿はこれ以上ない華やかさで溢れました。
「これを使いましょう」
源氏の娘、明石の姫君は東宮妃となり、自身は六条の院と上皇待遇となって、その六条院へ実は我が子の冷泉帝や異母兄の朱雀院、上達部(かんだちめ)も全員集まって華やかな中に物語は終わる・・・
香子は最後の構想を練るのでした。(続く)


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