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第56回 弟の失態そして・・・

香子らが土御門殿に来た翌日、勅使として蔵人となっていた弟・惟規(のぶのり)がやって来ました。香子としては晴れがましい気持ちでした。
中宮懐妊で沸き立つ土御門殿ではそれこそ勅使の惟規にどんどん酒を持ってきて歓待しました。またそれを惟規は全部呑みほしています。
「惟規、惟規」心配になった香子は几帳の陰から小声で注意しようとしました。しかし惟規は気づかないのかどんどん盃を干しています。

そしてついに泥酔した惟規は倒れ、その場で寝込んでしまいました。
別室に連れていかれたものの、それを一部始終見ていた香子は赤面し、女房達の視線にも耐えかねています。
香子は別室で惟規を叱咤しました。目が覚めた惟規は、
「おや、これは藤式部様の弟として面目なき次第でございます」
とまだ酔った調子で言います。
「何ですか、その言いぐさは」と怒る香子に、今度は惟規は涙ぐんで、
「姉上には感謝しておりますよ。姉上のお陰でこの愚弟に高官が与えられたのですから・・・」更に惟規は続けました。
「幼い頃より、父上に勉強を見て貰っていても、横で聞いているだけの姉上がすらすらと暗唱していて、ああこの子が男だったらと父上が言って言葉、今も覚えております・・・」
そう言って惟規は横を向いてしまいました。

そっと立ち去る香子に、いつしか道長が寄ってきて、
「目出度い席での事じゃ、気にするでないぞ」
と言ってきました。そして手を引いてどこかへ連れて行こうとします。
香子はもう抵抗する気力もありませんでした。しかし今度は合意で道長と夜を共にした事は、すぐに正室倫子の耳に入ったのでした。(続く)

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