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第26回 為時、越前守に。

為時が下国の淡路守に任官された2日後の正月28日、一旦、大国の越前守に決まっていた道長の乳兄弟の源国盛と為時の淡路守を交替させるという知らせが来ました。為時は呆然としました。
「信じられぬ。こんな事があろうとは。しかも国盛殿にも気の毒な・・・」
香子も信じられない気持ちでした。いくら帝に献上した詩が良くてもなぜこうなったのか全く分かりませんでした。やがて宣孝が勢いよくやってきてにこにこして言いました。
「為時殿、良かったのう。まさに貴殿の詩の成果よ」
「そうじゃろか」為時はまだ半信半疑でした。
「国盛殿に悪うてのう。それに国盛殿は仲立ちを頼んで源典侍様の弟ではないのか。せっかく渡したと思ったら弟の官職が取り上げられてしまうなど・・・」
「いや、国盛殿は道長様の乳兄弟。また便宜を図って下さる」
実際、秋に同じ大国である播磨守に国盛は任じられましたが、気落ちしていた国盛は病気となりやがて亡くなりました。姉である源典侍は為時一家を恨み、後年、出仕した香子を苛めます。しかし香子も『源氏物語』に「源典侍」という老女を実名で登場させ、光源氏と関係させて笑い者にし、宮中辞退に追い込んでしまいます。(後で復帰しますが)

しかしこの交替劇を仕組んだのは道長でした。道長の長女彰子は9歳。やがては一条天皇に入内させる積りでした。その時に、中宮定子に仕える清少納言の様な、才女の女房を物色していたのでした。為時の娘・香子が才女であるというのは有名で、大国への任官で為時に恩を売っておこうとしたのです。
この少し前の正月16日、伊周・隆家は花山天皇を襲うという不祥事を起こしており、まだ表沙汰にはなってはいませんでしたが、完全な政権交代を道長は確信していたのです。(続く)

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