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第154回 文覚の算段

頼朝は涙を拭き、目の前の文覚に言いました。
「しかし私は勅勘の身、謀反を起こすべき身ではございませぬ。それに兵とてございませぬし」
沈んだ顔の頼朝に、文覚は眼を大きく見開いて言いました。
「た易い事でございます。私が福原まで上って、お許しを法皇様に頂いて参ります。平家を憎む法皇様ならきっと書いて下さいます」
「御坊も勅勘の身ではございませぬか。そんな事ができるのですか?」
不思議そうに尋ねる頼朝に文覚は落ち着き払って言いました。
「我が身はどうでもよいのです。佐(すけ)殿こそ許して貰わねばなりませぬ。そう、福原の都に上るには三日もあればよいでしょう。院宣を貰うのに一日。都合、七日か八日には帰って参ります。それでは急いで行って参ります」
呆気に取られる頼朝や盛長を尻目に文覚は足早に立ち去りました。
文覚は自分の配所に戻ると、
「これから伊豆山権現に七日籠ります。もし役人が来たならそう言って下され。馬を借りますぞ」
そう言って早くも馬を西に向けたのでした。(続く)



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