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第49回 倫子の来訪

正月3日に今内裏の東三条院から堤邸に逃げ帰った香子でしたが、10日に中宮彰子からの使いが来て、春の祝い歌を奉れという事です。仕方なく香子は歌を作って託しました。
「みよしのは春のけしきに霞(かす)めとも 結ばはれたる雪の下草」
そしてまた里居を続けました。

二月の末、寒い夜、堤邸に密かに来客がありました。
道長の正夫人、倫子でした。お忍びで倫子は来たのです。
為時などはいくら親族であっても(為時にとってはいとこの子)、大臣の北の方の来訪に恐縮していました。香子を前に倫子は言いました。
「この度の事は申し訳ありませぬ。うちの殿御が失礼な事を」
「北の方様はご存知でらしたのですね」
「ええ、女房に聞きまして・・・お詫びの言葉もございませぬ。とっちめてやりましたわ。せっかく中宮様の教育係として相応しい方が来てくれたのに、追い出す様な事をするなんて・・・それで、三月四日に一条院の方に遷御(せんぎょ・・天皇が移動すること)しますの。その時にまた出仕して下されば嬉しうございます。香子殿と気の合いそうな女房を付けますゆえ・・・」
昔の少女とは違う、貫禄のある北の方になったと思って、香子は倫子の後姿を見つめました。
「もう一度行かなくてはいけないわね・・・物語も向こうで書けばよいと言ってたし・・・」
香子は再出仕の用意をするのでした。(続く)


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