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第46回 「日本紀」の御局

平伏して、許しを得て顔を上げた後、香子は驚きました。初めて見る主上の若々しさ、威厳。確か二十六の筈と思っていた香子を更に驚愕させる言葉を一条天皇は発しました。
「そしてが藤式部か。そなたは『日本紀』をよく読んでいるようだね。『史記』などもよく出てきた教養が感じられるよ。『源氏の物語』の続きを朕も読みたいものじゃ」
帝の後方で、道長がにんまりとしているのが見えました。『源氏の物語』の続きを聞きたさに、一条天皇が彰子の住まう藤壺に来るのが見えたからです。

緊張の時が過ぎ、香子は自分の局に下がる事を許されました。しかし廊下のすみでいろんな声がさっそくささやかれていました。
「日本紀の御局」「日本紀の御局」・・・それは帝にまで認められたという、羨望と嫉視のたまものでした。
そして少し横になってまどろんでいると別の女房が言ってきました。
「源典侍(げんのないしのすけ)様がお呼びでございます」
(続く)

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