家族、友人、同僚が新型コロナウイルスに感染している人におけるメンタルヘルス:神奈川県Line調査の結果

Mental health of family, friends, and co-workers of COVID-19 patients in Japan.Psychiatry Research Available online 6 May 2020,DOI: 10.1016/j.psychres.2020.113067
https://doi.org/10.1016/j.psychres.2020.113067
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が猛威を振るう中、感染者と非感染者のメンタルヘルスへの関心が高まっている。
 本研究では、日本で最も普及しているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるLINE上のチャットボットを用いた行政調査データ(直近2週間で16402件の回答)を用いて、COVID-19患者を身近な場所に抱えている人は、抱えていない人に比べて心理的苦痛レベルが高いことを明らかにした。
 この結果は、COVID-19患者の家族や近親者、友人などに合わせたメンタルヘルスや心理社会的支援の確立と実施が急務であることを示していると考えている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染者数と死亡者数は世界的に増加し続けている(WHO,2020)。ウイルスは目に見えないため、一般の人々に恐怖、否定、不安などの心理的苦痛を引き起こす(Pappasら、2009)。新型コロナウイルスは、地域的、全国的、世界的な検疫対策を義務付けており、この種の強力な対策もまた、集団レベルの心理的苦痛を誘発する(Rubin and Wessely, 2020)。

 政府の要請による外出自粛は、人々の生活を劇的に変えた。家庭外での必須でない活動の禁止、学校の閉鎖、在宅勤務などにより、何百万人もの人々が、ごく短期間に日常生活の変更を余儀なくされた。日常生活リズムの乱れは、さまざまな精神障害を発症するリスクを高めることが知られている(Lyall et al., 2018)。COVID-19対策としての外出自粛の長期化による生活リズムの乱れは、病歴のない健康な人においても、精神疾患を発症するリスクをもたらす可能性のある心理的苦痛を増大させるかもしれない(Liuら、2020年;Qiuら、2020年;Zhang and Ma、2020年)。

 神奈川県(東京都に次ぐ人口約900万人の日本第2位の県)は2020年3月5日、「COVID-19」の発生を受けて、LINEのチャットボット(アクティブユーザー数約8300万人、日本の人口の65%を占める国内最大のメッセンジャーアプリ)を活用した県民個別支援プログラムを開始した(神奈川県、2020)。県では、県内の利用者の現在の体調に関するアンケートを回覧した。

 37.5℃以上の発熱や強い倦怠感、呼吸困難(以下、体調不良)を訴えた人には、3つの質問(K6を一部利用した5段階のLikert式質問票)を用いて、さらに心理的苦痛度について質問している。また、身近な人(同居している家族、学校や職場の同僚や友人:以下、身近な人)がCOVID-19の陽性診断を受けたことがあるかどうかを質問した。この回答をもとに、利用者は相談窓口に案内され、感染予防のための情報を得ることができる。また、年齢や性別などの基本情報も尋ねている。

 神奈川県からデータを取得し、2週間(2020年3月24日~4月6日)のスパンで15歳以上の16,402人の初期回答を分析し、身近な場所でのCOVID-19患者の有無と心理的苦痛レベルとの関係を調べた。 なお、このデータは、初期の段階で積極的に調査に回答し、体調不良を報告したLINEアプリユーザーのみを対象としている点に注意が必要である。

 これらの理由から、本結果は必ずしも神奈川県の一般人口や日本人全体を代表するものではない。また、K6はもともと精神的不快感とストレスの6項目の尺度であった(Kessler et al., 2002)。単なる心理的苦痛のスクリーニングではなく、COVID-19に関連する健康不安をスクリーニングし、都道府県レベルで迅速に適切な情報を提供することを目的としていたため、本サービスでは6項目中3項目を選定した。

 選択された項目は以下の通りである。
・過去30日間でどのくらいの頻度で緊張(ナーバスになったか?)しましたか?
・過去30日の間に、どのくらいの頻度で落ち着きがなかったり、そわそわしていると感じましたか?
・どのくらいの頻度で、何も元気を与えてくれないほど落ち込んだと感じましたか? 

 次に、心理的苦痛のスコアについては、各項目(0-4)のスコアを合計して、各回答者の尺度化されたスコア(0-12)を計算した。

 COVID-19の感染者がが身近な場所にいる場合といない場合の心理的苦痛スコアの分布を図1に示す。年齢群(15~29歳、30~59歳、60歳以上)と性別で示している。

図1

[図1] 心理的苦痛スコア。
COVID-19患者が身近な環境にいるかいないかの心理的苦痛スコアのt検定の結果は以下の通りである。女性15-29歳、p値<0.05。女性30~59歳、p値<0.001。女性60歳以上、p値=0.3。男性15-29歳、p値<0.05。男性30-59歳、p値<0.01。男性60歳以上、p値=0.9。

 60歳未満のグループでは、親密な環境下でCOVID-19患者がいる回答者の方が、性別に関わらず、いない回答者よりも心理的ストレススコアが高く、その差は統計的に有意であった。

 この結果から、COVID-19患者の家族や近親者、友人に合わせたメンタルヘルスや心理社会的支援策の確立と実施が必要であることが示唆された。現在、保健所が提供するCOVID-19ホットラインは、感染の可能性のある人を特定することを目的としており、住民の不安を軽減するための心理的サポートは保証されていない。

 本研究の結果は、COVID-19患者の家族、友人、同僚に手を差し伸べることの緊急性を示している。この戦略には、個人的・社会的な偏見や差別を避けるための強いメッセージが含まれていなければならない(Shigemura et al. ., 2020).

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