なぜ薬の効果は小さいのか? 「木を見て森を見ず」的な薬の効果に関する考察

 脂質異常症治療薬のスタチン系薬剤は、心血管予後、あるいは生命予後に対するエビデンスが豊富な薬剤といえ、慢性疾患用薬の中でも効果サイズの大きな薬だと考えられている。実際、若年層よりも相対的に余命が短い高齢者においても、その有用性が示されている。

 例えば、65歳以上を対象としたランダム化比較試験、23研究(60,194人)を組み入れたメタ分析【1】では、一次予防集団について、死亡リスクに差を認めなかったのものの、冠動脈疾患が21%(相対危険0.79[95%信頼区間0.68~0.91]、心筋梗塞が55%(相対危険0.45[95%信頼区間0.31~0.66])、統計的にも有意に低いという結果であった。
  また、二次予防集団においては、総死亡が20%(相対危険0.80[95%信頼区間0.73~0.89])、心血管死亡が32%(相対危険0.68[95%信頼区間0.58~0.79])、統計的にも有意に低下し、生命予後の改善が示されている。

【その凸凹は実際に感知できるものなのか?】
 しかし、相対比で20%減るとか、30%減るといった表現は、薬剤効果に対する価値認識に一定のバイアスをもたらす。

 例えば、心筋梗塞の累積発生率が、プラセボ群で0.03%、薬剤投与群で0.02%であったとしよう。この場合の発生率比は0.02/0.03=0.67で、薬剤投与により、心筋梗塞の発症リスクが33.3%減ると表現できる。しかし、その絶対差は0.01%(0.03-0.02)に過ぎない。ごくわずかな絶対差を相対的に眺めることによって、差異を過大に評価/認識しかねないのである。

 このことはまた、電子顕微鏡で観察できる凹凸表面と、実際に触知できる凹凸表面についての差異を想像してもらえればよい。触知できる凹凸と電子顕微鏡で観察できる凹凸では、凹凸表面の高低差が相対比としては同じでも、絶対差でみれば桁違いにかけ離れていることは容易に想像がつくであろう。

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