サージカルマスクも布マスクもCOVID-19患者の咳飛沫をブロックできないかもしれない(DOI: 10.7326/M20-1342)

Bae S, et al : Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS–CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients. Ann Intern Med. 2020.DOI: 10.7326/M20-1342

【背景】呼吸器ウイルスに感染している場合、フェイスマスクは感染を防ぐと考えられているが、新型コロナウイルス病患者(COVID-19)のフェイスマスクが環境の汚染を防ぐかどうかは不明である。
 以前の研究では、サージカルマスクとN95マスクはインフルエンザウイルスの拡散防止に同等に効果的であったため、サージカルマスクは重症急性呼吸器症候群-コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染防止に役立つ可能性があると報告されている。とはいえ、SARS–CoV-2のパンデミック下では、N95マスクとサージカルマスクの両方が不足しており、布マスクはその代替品として関心を集めている。

【目的】SARS–CoV-2のフィルタリング(飛沫を拡散させない)におけるサージカルマスクとコットンマスクの有効性を評価する。

【方法】韓国のソウルにある2つの病院施設の審査委員会がプロトコルを承認し、COVID-19患者を研究に参加させた。インフォームドコンセントを提供した後、患者は陰圧隔離室に入れられた。

 本研究では使い捨てのサージカルマスク(180 mm×90 mm、3層[ポリプロピレンとポリエチレンを混合した内面、ポリプロピレンフィルター、およびポリプロピレンの外面]、プリーツ、段ボールにバルク包装)と再利用可能な100%コットンマスク(160 mm×135 mm、2層、個別にプラスチックでパッケージ化)を比較した。

 1 mLのウイルス輸送培地(ウシ血清アルブミンを含む滅菌リン酸緩衝生理食塩水、0.1%;ペニシリン、10000 U / mL;ストレプトマイシン、10 mg;アムホテリシンB、25 µg)を含むシャーレ(90 mm×15 mm)を患者の口から約20 cmのところに設置した。

 患者は、マスクなし、サージカルマスク、布マスク、再びマスクなしの状態でシャーレにそれぞれ5回咳をするよう指示された。5回の咳のエピソードごとに個別のシャーレを使用した。

 マスクの表面を、サージカルマスクの外面、サージカルマスクの内面、布マスクの外面、布マスクの内面の順で無菌のダクロン綿棒で拭いた。

【結果】4人の参加者の鼻咽頭および唾液サンプルのウイルス量の中央値は、それぞれ5.66ログコピー/ mLおよび4.00ログコピー/ mLであった。
 マスクなし、サージカルマスクあり、および布マスクありの咳後のウイルス量の中央値は、それぞれ2.56ログコピー/mL、2.42ログコピー/ mL、および1.85ログコピー/ mLであった。マスクの外側面からのすべてのスワブはSARS–CoV-2で陽性であったが、内側のマスク面からのほとんどのスワブは陰性であった。

マスク

【考察】感染した患者による咳の際、サージカルマスクも布マスクも効果的にSARS–CoV-2をフィルタリングしなかった。サージカルマスクがインフルエンザウイルスを効果的にフィルタリングしたという過去の報告は、COVID-19が確認または疑われている患者が感染を防ぐためにフェイスマスクを着用するべきであるとの情報根拠となっている。しかし、咳の際に発生するエアロゾル中のSARS–CoV-2のサイズと濃度は不明である。
 ObergとBrousseauは、サージカルマスクが直径0.9、2.0、および3.1μmのエアロゾルに対して十分なフィルター性能を発揮しないことを実証した。また、Leeらは、粒子が0.04〜0.2μmであればサージカルマスクを透過できることを示した。
 2002年から2004年に発生したSARS-CoV粒子のサイズは、0.08〜0.14μmと推定されている。SARS-CoV-2が同様のサイズであると仮定すると、サージカルマスクがこのウイルスを効果的にフィルタリングすることはほとんどないと考えられる。

 注目すべきことに、内側のマスク表面よりも外側の方が汚染が多いことが示されている。 拭き取りの物理的圧力により、ウイルス粒子が内面から外面に交差する可能性はあるが、本研究では外面を内面の前に拭き取っている。マスクの外側の表面に一貫してウイルスが見つかることは、実験的なエラーによって引き起こされた可能性は低い。

 マスクの空気力学的特徴がこの発見を説明するかもしれない。マスクの縁の周辺の空気漏れによる乱流は、マスク外面を汚染する可能性がある。 あるいは、咳の際に発生した高速のSARS–CoV-2の小さなエアロゾルがマスクを透過する可能性がある。

 ただし、この仮説は、咳をしている患者が大きな粒子を吐き出さなかった場合にのみ有効である可能性があり、高速であっても内面に堆積すると予想される。これらの観察結果は、マスクの外面に触れた後の手指衛生の重要性を裏付けている

 この実験にはN95マスクは含まれておらず、さまざまなタイプのマスクを装着したCOVID-19患者からの実際の感染伝播を反映していない。またこの研究から、マスクが咳の際の飛沫の移動距離を短くするかどうかは不明である。 フェイスマスクが無症状の個人または咳をしていないCOVID-19の疑いのある個人からのウイルスの感染を減らすかどうかを推奨するために、さらなる研究が必要である。

【結論】COVID-19患者の咳から環境および外部マスク表面へのSARS–CoV-2の播種を防止するには、外科用マスクとコットンマスクのどちらも効果がないようである。

【コメント】患者のマスクは咳飛沫を完全にブロックできるわけではない。飛沫感染を予防するためにも咳エチケットや手洗い、手指消毒の徹底が必要。またマスク表面に触れないことが大切かもしれない。

 なお、本研究では4例の症例報告であること、飛沫の飛距離を短縮させるかどうかの検討ができていないこと、くしゃみに対する飛沫についても検討がなされていないことから、本研究結果から飛沫感染予防に対してマスクが無効とは言えない。

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