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「空間除菌」の過去と現在、そして未来

 大幸薬品が、「衛生対策で医師・看護師等の医療従事者を支援」と称して全国の総合病院・クリニック等へ衛生管理製品「クレベリン🄬」を無償提供するというニュースはSNS上で波紋を呼びました。

【PDF】→大幸薬品、衛生対策で医師・看護師等の医療従事者を支援

「空間除菌」という概念を作り上げた同社の販促戦略は、コロナ禍が追い風となり、2021年2月16日に発表された12月期決算において、過去最高の売上を達成しています。売上高前期比1.6倍、営業利益前比1.7倍という成長率は、国内企業としてはなかなかの決算だったのではないかと思います【図1】。

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【図1】2020年12月期(FY2020)通期(4-12月)連結決算報告より

 しかし、同社の株価は必ずしも上昇基調にありません。2020年9月ごろをピークに株価は下落トレンドに転換し、決算発表直前の2月12日に窓を開けて下落、その後も回復の兆しは見られずレンジで推移しています【図2】。つまり、投資家の多くは「空間除菌」の未来に明るい見通しを立てていないことになります。

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【図2】大幸薬品の株価チャート:SBI証券より

空間除菌の実効性とその問題

 僕は2018年の10月頃に、空間除菌製剤の感染予防効果に関して文献レビューを行っており、その概要は日経ドラックインフォメーションオンラインのコラムにまとめてあります。

 端的に言えば、二酸化塩素ガスを用いた空間除菌商品の効果は、使用環境中の相対湿度に大きな影響を受ける可能性があり、微生物の除去に「効果あり」とする論文報告の多くは湿潤環境下での実験的研究だったことに注意が必要です。むろん、この研究結果と、実際的な生活空間との間には大きなギャップがあります。そして、実際の生活環境を想定した研究においては、二酸化塩素ガスのウイルスの不活化効果は明確ではありません

 「薬剤師にこそ知ってほしい事実」というコピーで薬剤師向け業界誌に空間除菌に関するエビデンスを紹介している広告記事を見かけますが、都合の良いエビデンスの引用と恣意的な解釈という側面が強く、薬剤師だからこそ鵜呑みにすべきではありません。僕は日経ドラックインフォメーションの記事で以下のように述べていました。

空間除菌という概念が科学的なものなのか、非科学的なものなのか、改めて議論の俎上に載せるきっかけになるもの……。この機会を喪失することなく、今後も継続した議論がなされることが肝要。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、同社製品が注目される中、改めて二酸化塩素製剤や「空間除菌」の感染予防効果について文献を検索してみました。

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