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新型コロナウイルスとは何なのか?感染するとどうなるのか? 感染対策と有効な治療法は何か?


【新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは】
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源は、SARS-CoVおよびMERS-CoVと同種のコウモリに関連付けられている。実際、SARS-CoV-2のゲノムと、SARS-CoVのゲノムの8割近くに一致が見られる【1】【2】  。しかし、遺伝子の系統解析では、SARS-CoVやとMERS-CoVとは明らかに異なっていることが分かり、SARS-CoV-2はサルべコウイルス亜属に属する新しいクレードとして分類され、ヒトへ感染する7番目のコロナウイルスとされた 【3】。

 SARSウイルスの自然宿主はコウモリ(キクガシラコウモリの一種、Rhinolophus sinicus)だと考えられているが、中間宿主であるジャコウネコ(ハクビシン)を介してヒトに感染したことが知られている【4】 。また、MERSウイルスも自然宿主はコウモリであり、ヒトコブラクダを介してヒトに感染したと考えられている【5】。

図1

【図1】ヒトに感染するコロナウイルスの動物起源(Nat Rev Microbiol. 2019 Mar;17(3):181-192. PMID: 30531947)
※SADS-CoVは人に感染するという根拠はない。
※SARS-CoV-2は人に感染する7番目のコロナウイルスとして同定された。

 SARS-CoV-2もまたコウモリが自然宿主と考えられており 【6】、その中間宿主としてはセンザンコウ(マレーセンザンコウ、Manis javanica)である可能性が指摘されている【7】 。センザンコウから検出されたコロナウイルスの全ゲノムは、SARS-CoV-2と91.02%の類似性、コウモリ(Bat-CoV RaTG13)のコロナウイルスと90.55%の類似性が確認されている【8】 。 

図1

【図2】主要なコロナウイルスにおける自然宿主、中間宿主(Cureus. 2020 Apr 6;12(4):e7560)

【環境中におけるSARS-CoV-2の生存期間】
  環境中でのウイルス活性に関して、エアロゾル、銅、段ボール、ステンレス、プラスチック表面におけるSARS-CoV-2の半減期は、それぞれ1.5時間、1時間、3.4時間、5.6時間、6.8時間と想定されている。また、活性維持期間はエアロゾル、銅、段ボール、ステンレス、プラスチック表面で、それぞれ3時間、4時間、24時間、48時間、72時間であった 【9】。生活環境下におけるウイルスの活性時間に関して、いくつかのコンセンサスがあるが、食料品の包装に付着しているウイルスは24時間でその活性を失うという指摘もある【10】 。

図3

【図3】環境表面中のウイルス活性時間(N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567)

【COVID-19、一般的な風邪、インフルエンザの違いと感染対策】
 風邪は様々なウイルスによって引き起こされる【11】が、その大部分はライノウイルス、およびコロナウイルスである 【表1】。

図4

【表1】一般的な風邪を引き起こすウイルス(Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9 )

 一般的な風邪とCOVID-19はどちらも、インフルエンザと比較して、病状の進行は緩やかである【表2】。発熱や倦怠感は、COVID-19とインフルエンザの両方で頻発する。また一般的な風邪では咳や倦怠感は稀であるが、鼻汁や鼻づまりは頻発する一方で、インフルエンザやCOVID-19では稀である。

図5

【表2】潜伏期間の比較(Cureus. 2020 Apr 6;12(4):e7560)

 COVID-19、インフルエンザどちらも、臨床症状は無症候性から重度の肺炎まで様々である。さらに、COVID-19とインフルエンザの両方は接触感染、飛沫感染によって伝播する【図4】。したがって、手指衛生の徹底と咳エチケットは、感染拡大の抑止に有効である。

図4

【図4】SARS-CoV-2の伝播(飛沫感染、接触感染)

 感染予防に対するマスクの有効性はあまり明確ではない。世界各国でそのコンセンサスに若干の相違を認めているが、感染者がマスクをすることは感染拡大の抑止に効果が期待できる一方で、健常者がマスクをしても感染を予防できるかについては否定的である【12】 。なお、サージカルマスクや布マスクをしていたとしても咳飛沫を完全に遮断できないことが報告されている【13】 。

 感染対策に重要なのは、頻回の手洗いなど手指衛生と、人混みを避ける(社会的距離を保つ)ことである。なお感染者を隔離することで感染者数が44%~81%、死亡者数が31%~63%減少すると報告されている【14】。参考までに生活必需品の買い物などにおける感染対策上の留意点を【図5】にまとめる。

図5

【図5】生活必需品などの買い物の際に注意すべきこと(JAMA. 2020 Apr 9. [Epub ahead of print] PMID: 32271867)

 感染の拡大に影響を与えるパラメータとして、重要なのが基本再生産数(R0)である。インフルエンザウイルスのR0は約1.3であるのに対し、SARS-CoV-2のR0は約2.3である【表3】。したがって、各COVID-19患者は、インフルエンザ患者と比較して1.8倍、感染が拡大しやすいといえる。

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【表3】RO値の比較(Cureus. 2020 Apr 6;12(4):e7560)
 
 また、SARSと比較して、COVID-19の一部の患者では、無症状の段階でも潜伏期間中に感染を伝播させることが報告されており、むしろCOVID-19の発症前後が感染力のピークである可能性が示唆されている【15】【16】【図6】 。

図

【図6】ウイルス排出における時間的ダイナミクスとCOVID-19の伝染性(Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5
感染性は症状の発症前の2.3日から始まり、症状の発症前の0.7日でピーク

【COVID19の臨床症状】 
 SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症は、COVID-19(Coronavirus Disease 2019)と呼ばれている。COVID-19患者1099例の解析 【17】によれば、病状の経過中に85%の症例で発熱を示すが、初期症状で発熱があるのは45%のみである。患者の67.7%に咳が発現し、痰は33.4%である。呼吸困難、咽頭痛、鼻づまりなどの呼吸器症状は、それぞれ18.6%、13.9%、4.8%に見られる。筋肉や骨の痛み、悪寒、頭痛などの症状は、それぞれ14.8%、11.4%、13.6%に見られる。悪心または嘔吐および下痢などの消化器症状は、それぞれ5%および3.7%に見られる 【図7】。

 また、この解析によれば、COVID-19患者の年齢の中央値は47歳であった。COVID-19の症状は、主に軽度で、14歳未満の年齢層では無症候性であることが多い。この現象を説明する明確な論拠は不明であるが、ACE2受容体がこの年齢層ではあまり発現していないことと関連しているかもしれない。また、SARS-Cov2感染者では味覚・嗅覚障害を訴える人が多いことが知られている 【18】【19】。

図6

【図7】COVID-19の主な臨床症状(J Autoimmun. 2020 May;109:102433)

 COVID-19患者191例を解析した臨床経過の要約を【図8】に示す【20】 。生存者ではARDS及び敗血症をそれぞれ9日目と10日目に発症していた。他方で、非生存者グループでは、それぞれ10日目と12日後にARDSと敗血症を発症した。さらに、非生存者グループは、急性腎障害や二次感染などの合併症をそれぞれ15日目と17日目までに発症している。なお、生存者グループは22日目までに退院し、非生存者グループは19日目までに死亡した。

図7

【図8】COVID-19患者の臨床経過(Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062)
※単色とクロスハッチパターンは、生存者(n = 137)と非生存者(n = 54)をそれぞれ示す。

 なお、COVID-19の重症化の危険因子として男性、高齢者、喫煙者、糖尿病、高血圧、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患、脳血管疾患の合併などが挙げられる【21】【22】【23】。

【COVID-19治療薬】
 現段階で有望な治療薬候補はレムデシビルである【24】 。ロピナビル-リトナビルやオセルタミビルは有効性が示されておらず、コルチコステロイドは現在推奨されていない 【25】【26】【図9】。

図8

【図9】治療薬候補とその標的(JAMA. 2020 Apr 13. [Epub ahead of print] PMID: 32282022)

 SARS-CoV2 はウイルス細胞侵入の受容体としてACE2受容体を利用する。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、ACE2受容体をアップレギュレートするため、理論上はCOVID-19の潜在的危険因子として作用し得る【図10】。しかし、現在の臨床的証拠は、COVID-19患者におけるアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬の中止をサポートしていない【27】【28】  。

図9

【図10】SARS-CoV2とACE2受容体(Eur Heart J. 2020 Mar 20. [Epub ahead of print] PMID: 32196087)

☑本記事内容に基づくスライド資料を以下に公開します。

☑COVID-19に対するBCGワクチン、治療薬に関しては以下の記事もご参照ください。

【参考文献】
【1】Nature. 2020 Mar;579(7798):265-269.PMID: 32015508
【2】Lancet. 2020 Feb 22;395(10224):565-574. PMID: 32007145
【3】N Engl J Med. 2020 Feb 20;382(8):727-733. PMID: 31978945
【4】Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Sep 27;102(39):14040-5. PMID: 16169905
【5】Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273. PMID: 32015507
【6】Emerg Infect Dis. 2014 Dec;20(12):1999-2005. PMID:25418529
【7】Nature. 2020 Mar 26. [Epub ahead of print] PMID: 32218527
【8】Curr Biol. 2020 Apr 6;30(7):1346-1351.e2. PMID: 32197085
【9】N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. PMID: 32182409
【10】JAMA. 2020 Apr 9. [Epub ahead of print] PMID: 32271867
【11】Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9 PMID: 12517470
【12】Lancet Respir Med. 2020 Mar 20[Epub ahead of print] PMID: 32203710
【13】Ann Intern Med. 2020.DOI: 10.7326/M20-1342
【14】Cochrane Database Syst Rev. 2020 Apr 8;4:CD013574.PMID: 32267544
【15】N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. PMID: 32182409
【16】Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5
【17】N Engl J Med. 2020 Feb 28. [Epub ahead of print] PMID: 32109013
【18】Clin Infect Dis. 2020 Mar 26. PMID: 32215618
【19】Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020 Apr 6. PMID: 32253535
【20】Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062. PMID: 32171076
【21】Tob Induc Dis. 2020 Mar 20;18:20. PMID: 32206052
【22】Aging (Albany NY). 2020 Apr 8;12.PMID: 32267833
【23】BMJ. 2020 Mar 26;368:m1198. PMID: 32217618
【24】N Engl J Med. 2020 Apr 10. [Epub ahead of print] PMID: 32275812
【25】N Engl J Med. 2020 Mar 18. [Epub ahead of print] PMID: 32187464
【26】JAMA. 2020 Apr 13. [Epub ahead of print] PMID: 32282022
【27】N Engl J Med. 2020 Mar 30. [Epub ahead of print] PMID: 32227760
【28】Eur Heart J. 2020 Mar 20. [Epub ahead of print] PMID: 32196087

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