【文献】Covid-19により入院した重症の成人患者において、ロピナビル-リトナビルによる治療は標準治療を超えるベネフィットを示さない。

Cao B, et al : A Trial of Lopinavir–Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19.N Engl J Med. March 18, 2020 DOI: 10.1056/NEJMoa2001282

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[背景] SARS-CoV-2によって引き起こされる重篤な疾病の治療に有効であると証明された治療薬はまだ存在しない。

[方法] SARS-CoV-2感染が確認され、呼吸器疾患Covid-19を起こした成人の入院患者(酸素飽和度94%以下、もしくはPao2とFio2の比率が300 mm Hg未満)を対象とした非盲検ランダム化比較試験を実施した。

 患者は、標準治療単独、または標準治療に加えて、ロピナビル-リトナビル(それぞれ400 mgおよび100 mg)を14日間1日2回投与群に1:1でランダム化した。

 一次アウトカムは、臨床的改善までの時間であり、ランダム化から7カテゴリーの順序尺度での2点の改善または退院のいずれか早い方までの時間として定義した。

[結果] 臨床検査で確認されたSARS-CoV-2感染症患者199人が対象となり、99人がロピナビル-リトナビル群に、100人が標準治療群にランダムに割り付けられた。

 その結果、ロピナビル-リトナビルによる治療は、臨床的改善までの時間に標準治療との差異を認めなかった(ハザード比1.31[95%信頼区間0.95〜1.80])。

 28日間における死亡についても同様に、ロピナビル-リトナビル群と標準治療群で有意な差を認めなかった(19.2%対25.0%、リスク差-5.8パーセントポイント[95%信頼区間、-17.3〜5.7])。任意の時点におけるウイルス検出患者の割合も群間差を認めなかった。

 修正ITTによる解析では、標準治療群と比較して、ロピナビル-リトナビル群で臨床的改善までの期間が1日ほど短縮することが示された(ハザード比1.39[95%CI、1.00〜1.91])。

 消化器系有害事象はロピナビル-リトナビル群でより一般的であったが、重篤な有害事象は標準治療群でより一般的であった。なお、ロピナビル-リトナビル治療は、有害事象により13人の患者(13.8%)で早期に中止された。

[結論] Covid-19により入院した重症の成人患者では、標準治療を超えるロピナビル-リトナビル治のベネフィットは観察されなかった。

【Discussion】このランダム化試験では、Covid-19の重篤患者に対して標準治療に加えロピナビル-リトナビル治療を行っても、標準治療単独と比べて、臨床的改善を示さず死亡率にも差がないことが確認された。ただし、早期に死亡した3人の患者を除外した修正ITT解析では、臨床改善までの期間の中央値に、控えめではあるものの有意な差が示された(15日 対 16日)。

 注目すべきことに、この試験の全体的な死亡率(22.1%)は、Covid-19の入院患者の初期の記述疫学研究で報告された11%から14.5%の死亡率よりもかなり高く、このことは本研究において、かなり重病患者を登録したことを意味する。

 本研究の患者集団は、登録からの罹病期間と重症度に関して異質であった。臨床的な回復までの期間短縮(16.0日対17.0日)および死亡率の低下(19.0%対27.1%)が、症状の発症後12日以内に治療を受けた患者の事後サブグループで観察されたが、その後の治療では観察されなかった。

 Covid-19での初期のロピナビル-リトナビル治療が臨床的利益をもたらすかどうかの問題は、現段階で仮説に過ぎず、さらなる研究が必要な重要な問題である。このサブグループ解析の示唆は、SARS-CoV-2ウイルス性肺炎の患者が2週目に進行することを示す研究や、SARS および重症インフルエンザにおける抗ウイルス開発以前の研究で観察された結果と一致している。

 また、ロピナビル-リトナビル治療を標準治療に追加しても、標準治療単独と比較して、ウイルスRNAの検出可能性の持続時間が短縮されることはなかった。SARS-CoV-2 RNAは、試験終了時(28日目)にロピナビル-リトナビル群の患者の40.7%で依然として検出されている。

 最近の報告では、Covid-19のウイルス排出期間の中央値は、重病患者では20日間であり、37日間にも及ぶ可能性があることが示されている。この研究においても、ロピナビル-リトナビルが有意な抗ウイルス効果を発揮したという根拠を示すことはできなかった。

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