こんなに水が流れてるのに、海はよくあふれないよね。
そのひとと初めて会ったのは、台風の日だった。
風と雨が京都を洗った。市内中の雨水が鴨川に注ぎこみ、ふだん中州で日向ぼっこをしているカモたちは、土手の片隅で身を寄せていた。土手には、根っこから倒れている桜の木があった。数本おきに倒れているから、不揃いな歯並びのようだった。
わたしはレインコートをかぶって、自転車で鴨川を下っていた。
土手の一部が欠けていた。流木は、そういう淀みにたまっていく。泥っぽい水面に、折れた枝葉が積み重なる。台風って、川をめちゃくちゃにするんだな……