明日で10年
今日はとっても暑いけども。
母が死んだあと、
ある方が「大切な人を亡くした季節の気配が毎年じぶんをさみしくさせるのよ」と教えてくれた事がある。
私は10年間、
５月に突然真冬みたいに底冷えする日があるってことを思い出す。
母が死んだ件について、私は何も乗り越えていない。
今でも追想しようとすると途中でロックが掛かったみたいに、
凍ったみたいに、固くて冷たいところがあって、
手前に来るだけで叫びだしそうになる。
行けなくは無いけど行こうと思えない。
さみしいってなんだろうか。
恩を返せなかった後悔、
この先甘えられなくなる焦り、
もう生きられないなんて可哀想ねっていう同情、
考えれば考えるほど、自分本意で相手のための感情だと思えなくて、
さみしいと思う自分が図々しくて呆れる。
「親の死」なんてほぼ誰にでも平等に訪れる事で、
成人後に経験して、
さらに10年経ったって、
それがいつまでも乗り越えられないなんて、
私はなんて幼稚で愚かな人間なんだろう。
でもいつも考えるのを途中でやめる。
だって考えると生きていけなくなりそうなんだもん。
前の晩に買っておいたクルミパンが、朝起きてくると穴だらけになってるくらいナッツが好きで、
あとチョコレートも大好きで、
お医者さんからは止められていなかったのに(もうお察しだったのかもしれない)、
病気に良くないからって、チョコとナッツのパフェを、うんうん悩んで我慢してた。
今となっては、
あの時もう食べちゃえば良かったじゃん
って思って涙が出るんだけど、
当時は私も「こんなに頑張ってるし治るんじゃないかな？」って思ってた。
だってそれまでは、やばい！ってなっても、なんでもぎりぎりでどうにかなっていた。
初めてどうにもならなかった。
私は全国ツアー中で横浜にいて、
母の日のために、病室に呑気に花籠をお願いしていて、喜んだメールがいつくるかと楽しみにしてたのに、
来たのは父からの電話で、
「苦しそうで見ていられないから、本人は嫌がっていた薬を使ってもらっていいか」
という確認だった。
当たり前にわかるはずだった。
いちいち大きく息を吸わないと、ひとことも話すことができない。
まるでベッドの上にパジャマが落ちてるみたいにぺちゃんこになった体。
繋がりっぱなしの点滴。
本を読んでなきゃ死んじゃうような人だったのに、読めなくて積んである本。
なんとかなるだろうと思ってた気持ちも、
直前のお休みの時に福岡に帰って母と過ごさなかった事も、
しんどいから電話ができないっていう母に文句を言った事も、
花籠のお礼を待っていた事も、
なにもかもがみじめで、恥ずかしくて、母が可哀想で、
辛くて悲しくて苦しいのに、ぜんぶ自分のせいだ、自分が愚かだから、
地獄に叩き落とされたみたいに自分が嫌いになって、
今でもこの事を「辛い」と表現することを、なんて厚かましい、と感じる。
それに当時、
母にはまだ祖父祖母という両親がいて、祖父祖母よりも辛い人がこの世にいるだろうか。
親が子供より先に死ぬのは当たり前で、子供の私は順番通りなんだから、
祖父祖母を差し置いて「辛い」なんて言ってはいけないんだ。
とも思っていた。
たくさんの人が私に慰めの言葉をくれて、
ぜんぶ愛情を持ってかけてくれた言葉だとわかっているし、今でももちろん感謝はしているけど、
ちっとも心に響かなかった。
ひとつだけ、「考えない、というのもひとつの生き方だよ」と言ってくれた2人がいて、
それだけはものすごく響いて、
母の最期のすがたを一生懸命わたしに伝えてくれる兄の言うことを、よく聞くことができなかった。
10年かけて少しずつ、私の生活と環境と習慣の中から母が減っていった。
忘れる、とは少し違うけど、
母と結びついていないものが増えた。
スマホも、東日本大震災も、PS4も、
私が宝塚に入る前に大好きだったショーの再演に出たことも、
思ったより宝塚に長く居られた事も、
思ったより海外に行く機会があった事も、
セーラー戦士になった事も、
思ったより俳優を続けている事も。
母は何も知らないな。
すごく余談だけど家族のバイブルだった「ピューっと吹く！ジャガー」は連載10年で最終話だったんだけど、
ほんの１ヶ月くらいの差で、母は最終巻を読むことが出来なかった。
あとがきとか読むと、母と話してた事の答えがあったりして、あーまじで読んで欲しかったなぁw
誰になんて言われようとこの世は生きている人たちの物で、
亡くなった人の残したものが枷になるならばそれにこだわる事は無いと思ってる。
教訓だなんだっていうけど、
きっとずっとこの世は、たくさんの人間の人生がぐるぐる繋がるだけ。
毎日が笑顔じゃなくても構わないけど、
私は私の良いように生きて54歳になりたい。
人生の終わりの事はそれから考えたい。
理想は未定。
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