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第一の課題

「この部屋がレンガの部屋だから、自由に使って良いぞ」

案内されたのは、同じような扉が複数並んでいる内の一つの前だった。
自分よりすごく背の高い兄ちゃんは、オレがそわそわして落ち着かない様子を見て笑うと、その扉の取っ手を掴み開いて中に入るよう促してきた。

「わぁ……!すっげー広い部屋!!」
「そうか?あー、子供目線だと広く感じるのか」
「エンとカシャと一緒に寝そべっても大丈夫そう!!」

な!と、後ろからついて部屋に入ってきたラビフッドのエンと一緒にはしゃいでしまった。
部屋には机とベッドがあり、各収納スペースやらテレビもある。入ってきた扉の向かい側にあるところの窓は開け放たれており、風がカーテンを揺らしていた。

今オレがいる所は、ヴァニルシティにあるハニカット家の一室だ。
この春から留学生としてこの地にあるスクールへと通うことになり、ホームステイとして受け入れてもらった家庭がここになる。
この家庭は今までにも何度かホームステイ先としてスクールへ協力しているらしく、また、自分が気になっている職業の経験者もいるという話があることから、紹介された時はすごく嬉しかった。
部屋に案内してくれた兄ちゃんも気さくで話しやすそうで良かったと思う。

「エドガー兄ちゃん案内ありがとう!オレすごく気に入ったよ!!」
「家ん中、増築とか重ねてるせいで最初は迷うかもしれないが、困ったら遠慮なく聞いて良いし近くのポケモンに聞けば教えてやるように言ってあるから」
「なんでこんなに部屋があるの?」
「昔から兄弟姉妹が多い家系だったみたいでさ。自分の部屋を持ちたいってなるとこのぐらい増えたらしい。今は空き部屋の方が多いから、どうせなら有効活用した方が良いだろうと思ってスクールに協力してるんだよ」
「へぇ~大家族だったんだ!」
「親戚は多いから集まりとかでゲストルームにしたりもしてるけどな。っと、そんな感じでとりあえずの案内はこんなもんか」
「はーい!」
「あと、俺のことはエディで良いぞ。レンガのことはレニーってことで、よろしくな」

差し出された大きな手に応えようとまだ少し幼さの残る自分の手で握手をする。まだまだ成長余地はあるし、これぐらい大きくなるぞと決心し頷く。

「オレ、ちょっと火傷のこととかで迷惑掛けることもあるかもしれないけど、やれることはちゃんと自分でやるから!」
「オッケー。……そういや炎タイプのポケモンは大丈夫か?」
「もちろん大丈夫!エンとも相棒で仲良しだよ!」
「お!じゃあ心配ないな。ちょっと窓の外見てみ」
「?」

言われるがままに窓に近寄り外を見てみる。それと同時に何か大きな翼が羽ばたく音が聞こえた。
羽ばたきの音の正体は一匹のリザードンで、その背中にはヒトカゲが乗っていた。親子なのだろうその二匹は、庭に降り立ち戯れている様子が見られた。

「リザードンだ!かっけ~~~!!エディ兄ちゃんの!?」
「いや、あのリザードンは俺のマミィの。ヒトカゲは俺が育ててるけどな」
「ねぇねぇ、近くで見たい!」
「良いぞ~。でもあとちょっと辛抱してくれ。ホームステイに来たレニーには最初にやるべき課題がある」

早く庭に出たいうずうずを抑えつつ、課題ってなんだろうと視線を室内へ戻す。
そこには小さな穴が空いた薄い板のプレートとカラフルなペンを手に持つエディ兄ちゃんがいた。
なんだろうと疑問符を浮かべていると、手に持っていたものを手渡される。

「レニーには、この部屋が自分の部屋だという証明の為にルームプレートを作ってもらう」
「!」
「名前は必須として、後は自由に色塗ったり絵描いたりしても良いぞ」
「分かった。うーんどうしようかな~」

受け取ったプレートとペンを持って机に向かって椅子に座る。エンが興味津々に覗き込んで様子を見てくる。
ちなみに、と、今までホームステイや短期の宿泊先として提供してきた子達のルームプレートはこんな感じで色々個性があったなと、アルバムに写真でまとめられたものを見せてくれた。作ったルームプレートが飾られた扉と一緒に作った子達が並んでいる写真もある。
女の子が来た事もあるらしく、華やかで可愛らしいものがあったり、シールでデコレーションされたものもある。
エディ兄ちゃんには妹がいるみたいで、女の子相手にはその妹の人が説明とかしていたらしい。
そして一番最近に作られたルームプレートの写真を見て、驚く。ここにある名前に覚えがあり、また、写っている人物について聞こうとしたタイミングで話しかけられた。

「シールとかステッカーとかが欲しかったら、後で買い出しの時に一緒に見に行くか?」
「ううん、大丈夫。オレ良い事思いついたから!エディ兄ちゃんスタンプ台ってある?」
「ん、ちょっと待ってな」

スタンプ台を探しに部屋から出て行ったのを見送り、その間にもう一度アルバムの写真の一つを眺める。
シンプルに名前だけ書かれたドアプレートと一緒に写っている人物をオレは知っている。
美しい金の髪に綺麗な翠と碧オッドアイを持つ同年代の子。
ある事件をきっかけに行方知れずとされていた、自分の先輩にあたる人。

Lesles レゼル。……先輩、この地方に来ていたんだ」

じっとその写真を眺め、指先でそっと撫でる。この地方のどこかにまだ居たりするのだろうか。国へ帰ってしまっている可能性もあるけども。
元気なのかどうなのかは写真の表情じゃ分かりにくい人だけど、同じ場所に訪れている縁を感じられて少し嬉しくなって笑みを浮かべた。


パシャリと写真を撮る音が聞こえる。
エディ兄ちゃんが携帯端末のアプリで、完成したルームプレートが飾られたドアと一緒に撮影をしてくれた。
ピースポーズをする自分の写真写りを確認し、改めて出来上がったルームプレートを眺める。
大きく書かれた自分の名前と、手持ちのエンとカシャの手形が押されたものに仕上がったそれに満足しつつ、最初の課題をクリアした達成感に心躍らせた。

「よーし!リザードン見に行ってくる!」

有り余る元気と共に、外へと向かって廊下を走りだす。
後ろから気を付けて走れよ~と掛かる声に返事をし、手を振りながら庭へと向かったのだった。

庭にリザードンとヒトカゲの他にもう一匹カイリューが増えていたことにより、テンションが爆上がりしたのは言うまでもない。

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