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記念写真

『全問正解デス』

誘い沼の試練であるクイズを連続で三問正解すると、ロボットで出来ているモクローが係員からチップをもらうように案内をしてきた。
近くにいるイエローチームの係員からチップを受け取り仕舞いつつ、次はどうするかぼんやり考える。他にも試練があったり、自分の所属するグリーンチーム以外の人とチップを賭けたバトルをしたりすることは出来る。が、手持ち達がはりきって落ちているチップをどんどん拾ってくるものだから、はぐれないように見ているので疲れた部分もある。

近くに居たオワゾは何か懐から取り出し、ロボットのモクローに再度目線を合わせるためにしゃがんでいる。
カシャリ、という軽い機械音が聞こえたかと思うと、一枚の紙状のものを嬉しそうに眺めながらこちらへと歩み寄ってくる。何をしているのか少し気になりはしたが、問いかける前に勝手に話し始めた。

「記念ニ写真ヲ取ッテマシタ♪レゼル君モ一緒ニ映リマスカ?」
「カメラだったんだそれ……。そのカメラって直ぐに写真が出るんだね」
「エェ、少シ レトロ ナ タイプ ノ カメラ デシテネ。デスガ近年流行リガ再燃シテイルモノナンデスヨ」

オワゾが手に持っている馴染みのない機材を見つつ、手持ち達の様子を伺う。

ヘルヘイムの森にいるゴーストタイプのポケモン達と仲良くなったのか、ゲンガーのアマルはお話をしている様子が見られる。フクスローのプリュムも波長が合うのか翼を広げて飛んだり、木々に止まっては歌っていたりする。
イーブイのラジェムも元気に近くを駆け回っていたのが見えた。

「……あれ?ラジェム?」

何か気になるものを見つけたのか耳をピンと伸ばし、尻尾を振りながら勝手にどこかへ向かって行こうとするラジェムを見逃さないよう視線を向ける。
好奇心旺盛で気になるものや頭を撫でてくれそうな人がいると走り出してしまう癖は相変わらずのようで、迷わずに進んでいく後ろ姿に声を掛ける。

「離れすぎると迷子になるよ、ラジェム」

声を掛けつつ付いて行こうと少し歩くと、試練を受けている最中の他のトレーナーの後ろ姿が見えた。身に着けている仮装の尻尾にはレッドチームの印が付いており、自分とは違うチームということが分かる。
邪魔をするわけにはいかないのでラジェムを捕まえようと手を伸ばそうとした時、ひんやりとした空気が頬を撫でた。そこにはいつの間にかグレイシアがおり、ラジェムの挨拶を受けていた。
見たことがあるグレイシアだと思い、ではそこにいるトレーナーはもしかしてと顔を上げると、丁度試練が完了したのか相手もこちらを振り返った。
目が合い、軽く会釈をすると同じように返してくる。

「君も来ていたんだね。レゼルです」
「……あっ、ラヴィーネです」

久々に会ったためか、名乗るまでこちらがレゼルか認識するのに間があったように思える。
身長や体格、声質も前回会った時より変わってしまっているのだろうと反応を見ればわかる。

「ラジェムが君達を見つけたみたいで。レーニアも元気そうだね」

元気なラジェムのじゃれつきに応えつつ、レーニアというグレイシアは一声こちらへ向けた。

「実は私も先程あなた方をお見掛けしていたのですが、こちらも試練中だったもので」
「そうなんだ。じゃあ、お互いこちらの試練は終わったみたいだね」

そうして軽く雑談をしていると、不意に何か聞こえた。鳥の鳴き声のような、口笛のようなものが近くから聞こえる。
二人はなんだろうと同じ方向へ視線を向けると、レゼルは先程も聞いたカシャリという音が響いた。そこにはオワゾがカメラを構えて写真を撮るポーズをしていた。

「オ久シ振リデス、ラヴィーネサン。オワゾ デス♪」
「わ……、こ、こんにちは」

突然の撮影と現れた人物に少々の驚きを交えつつきちんと挨拶をするラヴィーネに、今撮ったばかりの写真を差し出しオワゾは会釈をしてくる。
その写真にはレゼルとラヴィーネの顔が中心的に映されていた。

「突然失礼シマシタ。デスガ、我々ノ国デハ自然体の写真ヲ撮ル事ガ多クテデスネ~。撮ル側ハ『CuiCui』ト小鳥ノ声ヲ真似タリスルンデスヨ」
「じゃあさっきのはオワゾが出していたものか……」
「小鳥の真似とは……流石といいますか」
「イエイエ、ソレホドデモ」

オワゾはもう一つ写真を取り出して、ラヴィーネに手渡す。
そこにはレーニアとラジェムのじゃれている姿が映されている。

「宜シケレバ思イ出ニドウゾ」
「ありがとうございます」
「フフ、インスタントフィルムデスノデ、コノ世ニ一枚ノ写真デスヨ♪」
「一枚だけ……」
「ソウイエバ、オ二人ハ同ジ オンバーンモチーフ ノ ポケモン ノ オ洋服デスネ!記念ニ並ンデ撮リマショウ」

返事も聞かずにいそいそと準備を始める大人を見つつ、二人は横並びに直立する。こうしてみると身長差が顕著に分かり、成長の違いを感じさせる。
写真を撮ろうと構えた目の前のオワゾは、一つの間の後、シャッターを押さずに一度カメラを下げた。

「……?どうしたの?」
「モウ少シ 寄ッテイタダケナイカト思イマシテ。少々中央ニ空間ガ……。画角ガ広イモノデハナイノデ」

言われてみれば確かに中央に空間がある。
自分は横にいる彼女との間を詰めようと軽く一歩踏み出して寄ろうとした。
しかし、彼女もまたオワゾの言葉に同じように思ったらしく、同時に足を踏み出したために空間を埋めるどころかぶつかってしまった。

「あっ……」
「……!」

謝ろうとしたが、思った以上にぶつかりの反動があったらしい彼女がふらっと倒れそうになったのを見て、咄嗟に手を伸ばした。
腰回りを抱き寄せるように腕を回し、体勢が斜めになり髪が落ちつつも安堵の息を吐く。
転ばせて怪我をさせるわけにはいかない。

「すみません、咄嗟に」

バランスを整えて腕を離す。一時の間とはいえ、かなり距離が近くなってしまったことに謝罪をした。あまり不用意に女の子の身体に触れるべきではないとは分かっている。
時間のこともあるのを考え写真を撮り直そうとオワゾに向き直ると、既に何枚か撮っていたらしく手に写真を持っていた。

「ヤハリ自然的ニ起コリ得ルモノヲ映ス方ガ良イデスネ♪」

何枚かの一つには先程ぶつかった後の身体を支えた瞬間の写真もあり、レゼルはじとっと目線を向けた。文句を一つ言おうと口を開きかけると、ラジェムが足からよじ登ろうとしてきて気が逸れてしまった。
ため息を一つ吐き、よじ登るラジェムを抱える。そのままラヴィーネに向き直り、そろそろこの場を離れることを伝える。
チームカラーが違うためバトルをする可能性も考えたが、いつかの約束で彼女とはバトルをすることを決めている。

少し、その約束が果たされるか目が伏せられたが、必ず会いに行こうと改めて思ったのだった。

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