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数学と物理で考えるエネルギー問題

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テレビやネットで目にするエネルギー問題の解説では、経済コストやCO2排出量、エネルギー自給率、廃棄物処理などの社会経済に係る諸問題に焦点が当てられることが多いです。一方で、私たち… もっと読む
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記事一覧

まさに再エネのDXがカーボンニュートラルのカギ(後編)

前後編を予定と書いておきながら前編からなんと2年以上経過してしまいました。。 後編では再エネのDXとも言えるグリッドフォーミングインバータの基本的なアイディアと周波数同期との関係を解説したいと思います。 ■ 再エネの増加が電力の安定供給を脅かすはじめに再エネ導入が進むであろう近未来にどのような問題が生じ得るのかを説明したいと思います。 「グリッドフォーミング」とは? これまでの電力系統は、火力や原子力などの従来型の同期発電機によって私たちの電力需要(電力消費)が賄われ

システム制御で考究する電力系統の数理学

■ 私が考える数理学 私が主宰する研究室では、数理学の立場からスマートグリッドの研究開発を推進しています。数理学とは「数学でモノやコトを理解するための学問」です。私は、特に「理解する」という点を重視して数理学という言葉を使うようにしています。 「数理学」は「数学」とは似て非なる概念であると私は考えています。数理学の真骨頂は、物事や現象の裏を貫く真理や原理、構造を数学的に見通すことです。それは、数式を闇雲に展開したり近似したりして、論旨を煙に巻くような粗い数学とは異なりま

まさに再エネのDXがカーボンニュートラルのカギ(前編)

本稿(前後編を予定)では「再エネのDXがカーボンニュートラル実現のカギであること」を数学と物理の視点で解説してみようと思います。エネルギー業界では、再エネは同期化力や慣性力をもたないことが電力の安定供給を妨げる要因として指摘されています。一方で「同期化力」や「慣性力」という用語そのものが、定義が曖昧なままバズワード化してしまっていると私は感じています。これらが言わんとする再エネのデメリットを正しく理解することは、再エネを主力電源化する未来を考えるために不可欠だと思います。

電力システムの同期現象を数理科学する〜数学の削ぎ落とす哲学

​本稿では、電力システムで発電機集団の周波数が同期するという現象を「数理科学の視点」で解説します。微分方程式という小難しい概念が登場しますが、高校数学で習う微積分の知識が少しあれば理解できるように工夫しました。記事の最後に「数理科学でエネルギー問題を考えること」への私の信条も書き添えています。ダ・ヴィンチの『シンプルさは究極の洗練である』やファン・デル・ローエの『Less is More』、アップルの『Think Simple』などの言葉に心惹かれる方はそこだけでもご一読くだ

化石賞から「再エネの価値」と「火力発電の価値」について考える

化石賞を題材にして、COP26における岸田総理の演説に批判の声があがっています。たしかに再エネは燃料が不要でCO2も排出しないサステイナブルなエネルギー源です。その観点での価値は火力発電よりも明らかに高いと言えます。一方で「需給バランス維持への貢献」という観点では、再エネの価値は火力発電に遠く及びません。私自身が理解している電力システムの特性を考えれば、岸田総理が宣言した「火力発電のゼロエミッション化」は非常に理にかなった方針であると思います。本稿では、カーボンニュートラルを

再エネ導入はカーボンニュートラルの十分条件?それとも必要条件?

脱炭素や脱原発が声高に叫ばれる昨今において、再生可能エネルギー導入の重要性は日増しに高まっています。この記事では、わかるようでわからない必要条件や十分条件という数学用語に焦点を当てて、まずはその意味を自分なりに説明してみたいと思います。次回以降の記事で「再エネの大量導入は火力や原発を削減するための必要条件であって決して十分条件ではない」ということを具体的に説明していきたいと思います。 いきなりですが質問です。テレビ等である人が 再エネの大量導入は火力発電や原子力発電の削減

電気回路落単の研究者が語る電力システムのキホン

テレビやネットで目にするエネルギー問題の解説では、経済コストやCO2排出量、エネルギー自給率、廃棄物処理などの社会経済に係る諸問題に焦点が当てられることが多いです。一方で、私たちの生活基盤である電力システムの裏側は高度な科学技術に支えられているにも関わらず、エネルギー問題のポイントを数学や物理学の視点でわかりやすく解説している記事は多くはありません。今回は、今後の再エネ導入を考えるための基礎として、現在の電力システムの物理的特性や制御手法について可能な限りわかりやすく解説して