ロマン・ヤコブソン著『言語芸術・言語記号・言語の時間』を読んで

はじめに
 正直にいうと通読できませんでしました。序と冒頭の第1章を読んだのみです。ソシュールもそうだったし、レヴィ=ストロースのデュポン家とデュラン家の辺りも難しくて、その内容をしっかりと理解できずにいます(そもそもレヴィ=ストロースはヤコブソンの同僚で、彼からアイデアを得ていたらしい)。なので今回の記事は、今後ロマン・ヤコブソンの著作を理解できるように、分からないなりに重要性を持つと推測されることを備忘録として残しておきたいと思います。

分からないなりに分ったこと
 どうやら、ヤコブソン(プラハ言語学サークル)という人はソシュールの研究を評価した上で、ソシュールの間違いを指摘しようとしていたらしい(『通時的事実』と『共時態』、あるいは言葉の状態と変化に関する議論)、その辺りが理解の要になりそうです。余談になりますが、D&Gはイェルムスレウ(形式と実質/表現と内容)という言語学者を参照していますが、その読み方はかなり大胆なものになっているようです(誤読なのか援用なのかは難しいところ、そもそも二人は既にある概念を換骨奪胎していくスタイルだし…)。
 たしか中沢新一さんも、初期の活動に記号論に関する翻訳があったはずです(ポール・ブーイサック著『サーカスーアクロバットと動物芸の記号論』やジュリア・クリスティヴァ著『セメイオチケ(2)記号の生成論』の翻訳の仕事があり、レンマ学ではソシュールの「連合」と「連辞」についても触れていて、相即相入を相即=隠喩/挿入を換喩としています。ちなみにヤコブソンは「連合」を「選択」、「連辞」を「結合」としているようです。ひとまずソシュールは言語学より記号学という名の存在論に足を突っ込んでしまったので沈黙せざるえなかったのでは、ヤコブソンはもっとパフォーマティブなところで議論しているのではと考えています)。個人的には、言語も関心がありますが、それよりも言語の本能とも言える、記号(シーニュ)の機能に関わる象徴(シンボル)や寓意(アレゴリー)に強い関心を持っています。関係ないですが、ヤコブソンは九鬼修造と話が合いそうな気がします。

おわりに
 以下、ロマン・ヤコブソン著『言語芸術・言語記号・言語の時間』よりの引用になります。

話し手は言葉から音へ向かうが、聞き手はちょうど反対の方向へ進む。これは聖アウグスティヌスが言語論について考察した際に強調したことである。

ロマン・ヤコブソン『言語芸術・言語記号・言語の時間 (叢書・ウニベルシタス)』法政大学出版局 p. 47
※ページ数は旧版のものになります

 この辺りの言及が、何を問いかけているか理解できれば、言語学で扱われている問題や、ロマン・ヤコブソンが指摘していることについても理解することができるのかなと思っています。もしかしたら誤読かもしれませんが…。
 関係ありませんが、聖アウグスティヌスは、なかなか心惹かれる人物ですね。出村和彦さんの新書で心奪われてしまいました(アウグスティヌスは心臓を射抜かれるアイコンを使っていたようです)。

追補
 ソシュールは、文献を残さなかったので、ソシュールの言語学を語る人によって、ソシュールの言語学に違いが生じていると感じます。加えて、ソシュール自身もおそらく時期によって考え方が違うでしょうし、その思考が二項対立的なニュアンスが強く、二項対立が取りこぼしているところにこそ、ソシュールが言いたかったことがある(存在論的な記号学、あるいは言語的存在とでも呼べばよいのでしょうか、この辺りがヤコブソンと意見が分かれるところであり、D&Gがイェルムスレウを参照にしたところにもつながるのでは?)と考えています。
 ベルクソンやドゥルーズは「差異」こそがと考えていましたが、ソシュールは「反復」こそが言語の本質(もしかして言語を生物的に捉えていた?あるいは言語の単位に関する考え方が他の言語学者に比べ異質だった?)と考えていたのではと…ぼんやり考えています(これはパターンや冗長性ともいえるかもしれませんが、パターンや冗長性だとしたら、差異の蓄積がパターンや冗長性を生み出すわけで、やはり差異が先立つように思うのですが…、気圧の形態の反復が風を生むのではなく、気圧の差異が風を生み、気圧の形態を示すように)。しかしながら、チョムスキー的な言語学やオースティン的な言語学もある訳で、やはり言語学を理解するのは難しい(私に数学的素養がないのも私にとって言語学を難しくしている要因のひとつなんですが)と思う訳です。

参考図

    ↑
    |
 時間 |

ーーーーーーー▶︎通時的(樹を流れる栄養のイメージ)
    |
    |
    ↓
共時的(樹の幹の断面のイメージ)

参考文献
出村和彦(2017)アウグスティヌス 「心」の哲学者,岩波書店.
中沢新一(2019)レンマ学,講談社.
フェルディナン・ド・ソシュール著,前田英樹訳・注解(1991)ソシュール講義注解,法政大学出版局.
ポール・ブーイサック(2012)ソシュール超入門,講談社.
町田健(2004)ソシュールと言語学ー言葉はなぜ通じるのか,講談社.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?