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【r4lx-izm】世界で最も不当な評価を受けるGK「ヴォイチェフ・シュチェスニー」

月ユベで紹介させて頂き大きな反響を呼んだTwitterアカウント「@r4lx_j1897」。今回はその運営者であるr4lxさんにお願いして、裏ユベに記事を寄稿して頂きました。非常に興味深い内容に仕上がっておりますので、普段の月ユベ、裏ユベとは異なった‘’r4lx-izm‘’が詰まった記事をお楽しみ下さい。

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「GKはユベントスの大きな弱点だ」
「シュチェスニーはアーセナルでの5年間で苦戦したが、私にはそれから成長していないように見える」

ポール・スコールズがこう発言したのは、ユベントスのホームで迎えた18/19のチャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦の後。まだつい昨季のことである。

英国BT SportのTV番組で隣に座るオーウェン・ハーグリーブスはこう続けた。

「スコールジー(スコールズの愛称)のGKへの指摘は非常に良い点をついている。ワールドクラスのGKを抜きにチャンピオンズリーグを優勝したチームが一体どれだけあるだろうか?」

「(ロナウドを獲得して)チームはチャンピオンズリーグ優勝に向けた準備が出来ているが、ブッフォンが去った事で必要な1ピースを失ってしまったのではないかと裏では考えている事だろう」


ユベンティーニにとってシュチェスニーは当然ワールドクラスのGKである。それはユベントスに加入したからそう思っている訳でもなく、ASローマ時代から極めて厄介な相手だった。

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15/16と16/17シーズンにおいて、シュチェスニーを擁するASローマとのセリエAでの直接対決の4試合の結果は「2勝2敗」。ユベントスの得点は最高1点どまりで、シュチェスニーから複数得点を奪うことは結局出来なかった。シュチェスニーはセリエAで最高峰のGKという評価を確固たるものにした後に、ブッフォンの控えを受け入れる形でユベントスにやって来ている。

2018年の春にブッフォンがユベントスを退団することを明かした時も、その理由の1つとして挙げたのがシュチェスニーの存在であり、彼がいるからこそ「何の不安もなく去れる」と全幅の信頼を口にしていた。それからユベントスの正守護神となったシュチェスニーは、全ユベンティーニの期待を裏切らない安定した活躍を見せて来ている。

クラブからの信頼も明らかであり、直近で2024年までの契約延長を発表したばかり。サラリーも現行の4Mから7M弱へと大幅に上昇すると噂されており、クラブは今後のユベントスの守護神をシュチェスニーに任せるという明確な姿勢を打ち出している。

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直近ではドンナルンマを中心にGK獲得の噂も書かれていたものの、このサラリーの上昇はそれを明確に否定する動きと言ってもいい。2月13日のコッパ・イタリアACミラン戦を前にしたラーイ・スポルトのインタビューで「シュチェスニーの契約延長は他の守護神獲得の噂を否定するということにもなる?」と聞かれたパラーティチは、「もちろんそういうことだ。シュチェスニーには大きな信頼をしている。世界最高のGKの一人だと思っており、他のGKの獲得は考えに入らない」と答えている。

それでもなお、未だにシュチェスニーは世界のサッカーファンから十分に評価されているとは思えない状況が続いている。個人的にも「ユーベはロナウドを獲得したけれど、GKの穴は補強しないの?」とプレミアリーグを主体に見る知人から聞かれた事がある。まさに冒頭でスコールズが指摘する通り、シュチェスニーをワールドクラスのGKとして見ていないのだ。ロナウドを獲得してこの数年でチャンピオンズリーグ優勝を狙うのならば、シュチェスニーでは荷が重いだろうと率直に考えているのだ。


なぜそうなっているのかを裏付けるようなデータがある。

これはJohn Harrison氏(Twitter:@Jhdharrison1)による分析で、ビッグデータを元に1本ごとのシュートのゴール期待値を計算する"xGモデル"を応用して算出した"期待セーブ率"と実際のセーブ率を比較した画像である。点線が期待セーブ率であり、膨大な過去のデータから"この位置でこういう流れから放たれたこのシュートならば平均的にはこれだけセーブされてきている"というのを積み重ねた数値。実線がシュチェスニーの実際のセーブ率。緑のエリアの大きさはいかに実際のセーブ率が期待セーブ率を上回っているか、つまり平均的なGKよりもいかに優れているかという事を表している。

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この表が作成された時点でのシュチェスニーのセーブ率は約77.5%で、期待セーブ率の70%を大きく上回っている。単純化するとトップリーグの一般的なGKが30失点するような100本の枠内シュートに対峙した時、22~23失点に抑えるのが今季のシュチェスニーである。これは紛れもなく世界屈指の名手と言っていい数値だ。

そして注目すべきは、シュチェスニーが活躍し始めた時期である。シュチェスニーがASローマに加入したのは15/16から。期待セーブ率を大きく上回るセーブ率を記録し始めたのはまさにその頃からで、セリエA加入以降は安定して平均的なGKに大きな差を付けるパフォーマンスを記録して来ている。そして現在まで常に成長を続けているとも言え、今季が最良、次点は昨季である。

シュチェスニーがワールドクラスのGKではないという評価をしている人は、非常に単純な話で、セリエAに来てからのシュチェスニーを見ていないのだ。

参考までにJohn Harrison氏が挙げている他のGKの同じスタッツは以下の通り。このデータからは直近のシュチェスニーは全盛期のノイアーと同等のショットストップ能力と言える。近年ではアリソンだけは別次元の成績を残している。

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「奇跡的なセーブの90%はそこに至るまでの準備過程でミスがあるということ。完璧なタイミングで技術的なミスなく実行された、より単純に見える普通のセーブの方が嬉しい」とユベントスTVのインタビュー企画で語っていたシュチェスニー。GKに対する決定的な評価軸はないと言える状況ながら、ハイライトリールで評価するよりは、一つ一つのセーブの積み重ねが現れるセーブ率の方が似合っている。

そのシュチェスニーの今季のリーグ戦における現在のセーブ率はWyscoutのデータでは80.46%。これはセリエAで4試合以上出場している全GKの中で最高の数値であり、リーグでただ一人の80%超えとなっている。欧州5大リーグで見渡しても、今季セーブ率が80%を超えているGKは数少ない。...というよりも、5試合以上の出場を条件とすれば具体的にはあと一人しかいない。84.00%を記録しているのは、そう、異次元のGKであるアリソンだ。

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ASローマ時代の16/17シーズン、そのアリソンを控えにしてセリエA全試合フル出場を果たしたのがシュチェスニーだった。今はブッフォンを控えにするシュチェスニーは、昨秋のEURO予選の際にこう語っている。

「ローマでは世界最高のGKを控えにした。いまユベントスでは史上最高のGKを控えにしている。つまり僕が世界でも史上でも最高のGKという事になるね」

もちろんこれは満面の笑顔で発した冗談だ。ただ現在の状態を考えれば、片方はあながち冗談でもない。シュチェスニーがワールドクラスかどうかは、もはや議論に値しない。いま議論をするならば、世界最高かどうかである。


ユベントスがもしもチャンピオンズリーグで優勝出来ずに敗退するとしても、それがシュチェスニーの力量不足によるものではないということは、全ユベンティーニが分かっている。セリエAを普段目にしない人でも観戦するチャンピオンズリーグは、現在の不当に低い世界からの評価を払拭する良いきっかけだ。名手揃いの決勝トーナメントにおいても、このポーランド人守護神の存在はユベントスの明確な強みとなってくる。

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0-1の敗戦で終わってしまったアウェイのリヨン戦。ホームでアウェイゴールを奪われずに無失点に終える事が突破への最大の鍵の1つとなり、シュチェスニーには大きな役割を果たす事が期待される。最終的に優勝という結果で冒頭の批判をねじ伏せられるかどうかまではともかくとして、シュチェスニーには今季のチャンピオンズリーグで大いに世界的な評価を上げて欲しいと心から願う。"世界的に低評価のままでもいいかな"と心のどこかで思っていた唯一の理由だった契約延長も、もう済んだのだから。

(了)

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【編集長ミツより】
裏ユベ初のコラボレーション企画、いかがでしたでしょうか。Tweetからも分かる通り、数字などを基にして非常に冷静かつ的確に選手やチームを分析されている事が改めて分かりました。
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