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チェコ買い付け日記2024④「プラハの清水」

毎年行っている古本屋へ。買い付け2軒目です。
その日は雨予報で、トラムに乗っているあいだに雨が降り出し、古本屋に着く頃にはしっかりと本降りになっていました。

今回の滞在中は毎日雨が降りました。
私の雨女エピソードは去年の日記にも書いているのであまり重ねて書きたくはないのですが、今年も力を発揮してしまいました。
でも、チェコでは一日中雨という日は珍しいような気がします。
毎朝ニュース番組を見ていたのですが、天気予報が毎日「晴れ・曇り・雨・雷」の4つとも出ているのです。これで予報と言えるのか?と思ったのですが、確かに1日のうちで雨も降るし、でも長くても2〜3時間で晴れてくる。雷は外れる日もありましたが、他はちゃんと当たっているので文句は言えません。

目的の古本屋は小さな店で、お客が3人も入れば満員。かなり雑然としていて、ぎゅうぎゅうに詰まった本棚と、足元やカウンターの前にも本や雑誌が積み上げられています。先客がいたので入り口からじっくりと見て、その人が帰ってから奥の方も見ていきます。
雨はどんどん強くなり、傘をさしていても濡れそう。店を出るときもこんなだと困るな、と思いながら本を選びます。

ある程度買うものが決まり、そろそろお会計をしようかと思ってふと見ると、ビールのコースターがまとまって置いてありました。チェコはビールの国。コースターも店ごと、銘柄ごとにかわいいものが多く人気です。店員のおばさんに値段を聞くと、分からないからオーナーに電話で聞いてくれることになりました。
ところが電話が繋がらなかったようで、折り返しがあると思うから少し待ってて、とのこと。
仕方がないので店内をもう1周。でも小さな店なので、ほとんど見終わっているのです。
買うかどうか迷っていた厚い本を追加で買うことにして、絵本のコーナーももう一度丹念に見て、でもまだ折り返しがありません。
その間にも雨は降り続いています。

古い雑誌を立てて陳列してある場所がありました。並んでいるのは大人向けの私の好みではない雑誌のようなので後ろの方までよく見ていなかったのですが、時間を持て余していたので丁寧に見ていきます。
奥の方にビニールに入ったものが見えました。ビニールの中には何かの説明が書かれたかなり大きめの台紙が入っていて、上の方にリトグラフと読めそうな文字。手前の雑誌を退けると、JOSEF LADA の文字とラダの絵が目に飛び込んできました。どうやらヨゼフ・ラダのリトグラフ集のようです。

表紙は茶色くなっていてボロボロ。背が取れていて綴じが全部バラバラ。そのためか1枚ずつ売られているようです。数えると全部で20枚以上あります。出版は1930年。ラダがまだ生きている時代です。
これは…値段を考えて一瞬迷うふりをしますが、買うという選択肢しかない。これが世に言う「清水の舞台から飛び降りる」なのでしょうか。
でも1つ問題が。この店は現金しか使えないのです。

地方の古本屋では現金しか使えない店も多いのですが、プラハやブルノではクレジットカードで払える店がほとんど。それでも週末の蚤の市や、数少ないキャッシュオンリーの店のために、かなりの額の現金を持ってきていました。そしてその半分以上の額を昨日両替したのでした。まさか初日でなくなるかもしれない、というか足りないかもしれない。この雨の中ATMに走ることになるのか…?

とりあえず店員さんに今買おうとしている本の合計を計算してもらいます。この店でも良いものがたくさんあったので、かなりの額。
と、そこへ電話が。オーナーから折り返しがあったようでビールコースターの値段が判明します。でもすでに私の頭の中はリトグラフでいっぱい。そして多分現金が足りない。

手持ちの紙幣を数えてみると、あと200コルナ必要でした。コインを数えようとすると、店員さんの方からこれ以上はいらないと言ってくれました。助かります!!!!!
後でもう一度来てもいいけれど、コースターのことは今は考えられない!頭の中は「ラダのリトグラフ買っちゃった!」が鳴り響いています。

買った本をかばんに詰めます。雨予報なのでビニールの袋を持ってきていたのですが、お店の人も1枚くれました。袋に入れた本をリュックと肩にかけたバッグに詰めて、店の人に挨拶をして、傘をさして外に出ます。
先ほどまでのひどい雨ではありませんが、まだきちんと本降りです。荷物が濡れないようにリトグラフが入った肩掛けかばんをぎゅっと前に抱えて、「ラダのリトグラフ買っちゃった!」をリピートしながら歩きます。あまりにフワフワしていてわざわざ1駅先まで歩きそうになり、歩きながらふと我に返り、慌てて一番近い駅に戻ります。

やってきたトラムに乗り、窓の外を眺めながら「清水の舞台」ってプラハにもあったんだな、と思いました。
ホテルの最寄りの駅に着いた時には雨はほとんど止んで明るくなっていました。

ホテルに戻ってリトグラフを改めて見てみます。
チェコのおとぎ話の第一人者エルベンの短いお話にラダが絵をつけたもの。
表紙は汚いのですが中はきれいです。紙が厚いからか折って糸で綴じるのではなく、ホチキスのようなもので1枚1枚を折らずに束ねて綴じていた痕があります。破れもありますが、ほとんどはきれいで色も褪せていない。
日本に帰ってからリトグラフと同じ絵が使われている本があったので比べてみました。同じ絵でもリトグラフと印刷では線の太さや色の出方が全く違って新鮮です。

『Dětem』Josef Lada 1955年 SNDK出版(左)とリトグラフ(右)の同じ絵

いいものを見つけたな。買い付けが始まってまだ半日ですが最高のスタート!
と思いつつ、落ち着け私、抑えるところは抑えよう、と昼ごはんは近所の店で買ってきたパンとヨーグルトで済ませます。

さて、手持ちの現金もなくなったので、両替もしつつ、次の店へ出発です。


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