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チェコ買い付け日記2023⑱「墓参りは続く」

ヨゼフ・ラダはOlšany Cemeteryという、プラハの中心部から少し東に行ったところにある広大な墓地に埋葬されていました。
つい3日前にここから徒歩1分の古本屋へ来ています。なんなら前回の買い付けでも。

墓地はかなり交通量の多い、トラムも走る道路に面していて、近くにショッピングセンターもあるような賑やかな場所ですが、一歩中へ入るとほとんど人がおらず、とても静かです。墓地を囲む塀の外から見ると、墓地というよりも鬱蒼とした森のよう。
入り口の門を入ってすぐのところにMĚSTSKÁ POLICIE(市警察)と書かれた建物がありました。勤務地、墓地。
いろんな意味でこの場所に警察官がいてくれるとありがたいですが、このときは人がいるような気配はありませんでした。

入ってすぐに案内板があります。有名な人がどこに眠っているのか、名前に番号が振られたものと、その番号が振られた地図。墓地が広すぎる上に数多くの有名人が埋葬されているので、これがないと絶対に探せません。
ヨゼフ・ラダは123番。そこを目指して歩きだします。

本当に森の中にいるようです。もう参る人がいないのか、通路に草が生えて緑に埋もれたお墓もあります。木に囲まれているので日が差さない場所が多く、冷んやりしています。
墓地は静かで、全く人がいないわけではありませんが、滅多にすれ違いません。
そして本当にとてつもなく広い墓地。ウィキペディアによると6万5千のお墓があり、23万人が埋葬されていて、チェコで一番広い墓地なのだそう。

いろんなお墓があります。大きなもの、小さなもの、彫刻で飾られたもの、シンプルなもの。
お墓には故人が好むデザインが表れそう。直接会ったことがなくてもその人をイメージしやすくなりそうです。そして送る側は、そうやって故人にぴったりのお墓をデザインすることで、その人を偲ぶ時間が持てそうです。お墓の前にベンチを置いているところもありました。

ラダのお墓は9−5というエリアにありました。丸い柱の上にラダの写真が付いた小さな家が乗る可愛らしいデザイン。周りのお墓に比べるとこぢんまりとしています。ゴージャスな彫刻が刻まれているわけでも、大きな墓石が使われているわけでもありません。
そうか、ヨゼフ・ラダはこういう人だったのだな。
数多くの本の挿絵を描き、15,000点と言われる絵を残し、今でも毎年どこかで展覧会が開かれ、通りに彼の名前が付けられるほどの人だけれど、ラダ自身は本当に質素で偉ぶったところのない、故郷の小さな村を愛する、絵を描くのが好きなおじさん。(私の勝手な想像です。)
ヨゼフ・ラダはこういう人だったんだ。
お墓参りをしてみて良かったです。

もとの出入り口に戻り門の外に出ると、途端に現実世界に戻ってきたような感覚になりました。車が行き交う音。道に差す夕日。すたすたと歩いていく人たち。気温も心なしか暖かくなったような気がしました。

この日記を書くためにOlšanyの墓地について調べていると、埋葬されている有名人のリストの中にカレル・ヤロミール・エルベンの名前を見つけました。チェコ各地に伝わる昔話を収集し、本にまとめた人。日本語に翻訳されているお話もあるし、ヨゼフ・ラダが挿絵を描いた絵本もあります。
これは、また行かなくてはなりません。


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