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インドネシアへの想い⑥夫編

〜人生最大のビッグウェーブ 後編〜

ようやくホテルでトイレマークを見つけた私は歓喜と安堵に包まれた・・・訳ではありません。ここで気を緩めると、とても危険であることを私は知っていたからです。

例えば、通勤電車の中。突然、便意をもよおしたとします。次の駅で途中下車してトイレに駆け込みます。そのとき、トイレを見つけたことによる安心感がより一層、便意に拍車をかけるのです。安心したままトイレに入ってみると、なんと、全室使用中!拍車がかかった便意は後戻りができません。

ですから、私はトイレを見つけても、決して安堵はしませんでした。そして、括約筋に呼びかけます。

私 「まだ安心はできないぞ。使用中の可能性を心しておくのだ!」
括 「はい!旦那様、そのときは最後の力を振り絞って全力で務めさせていただきます」

(4つ星ホテルのロビーを競歩でかけぬけた私)

トイレの中に入ると、個室が2つありました。そのうち手前の1室はドアが閉まり、使用中となっています。奥の1室は、ようこそ!と言わんばかりにドアが開いているではありませんか。救いを求める私の目に、眩いばかりに光り輝いている洋式便器が飛び込んできました。

私 「括約筋くん!長い道のりだったね。ようやく解放される時がきたのだよ!」
括 「旦那様、困難に耐え、よく頑張りましたね。さあさあ、早く便器にお座りくださいませ」

・・・と、感傷に浸っている場合ではありません。私は洋式便器を見たことにより、ますます便意に拍車がかかっていました。

私の脳裏には瞬時に①〜④の流れがイメージされています。
① トイレのドアを閉める。
② ベルトを外して、ズボンを下ろす。
③ 便座に腰掛ける。
④ フィニッシュ!

めでたく個室に入り、いざドアに手をかけたときーーー
「えっ!え!え!えっ!ド、ドアが・・・閉まらない!」

内側からドアを閉めようとしても、ドアフレームにドアがぶつかってしまい、ロックされないのです。4つ星ホテルのはずなのに。(なんという建付けの悪さ!)

しかも、ドアを手で抑えようにも、ドアと便座の距離が2メートルほど離れているのです。(なんという無駄な広さ!)

先ほどイメージした流れを①で中断されたことにより、私はパニックに陥ってしまいました。もう何が何だか分からなくなり、常軌を逸してしまったのです。
そして、無理矢理にでもドアを閉めようと、内側から思いっきりドアを蹴ったのです!

そう、往年のジャイアント馬場の16文キックのように!

括約筋が叫びます。
括「だ、だだ旦那様あぁぁぁ!足を高く上げてはなりませぬぅぅぅぅぅ!」

私&括「あっ!」


それは、小学校2年生のとき以来、およそ40年ぶりの屈辱でした。
と同時に、身をよじるほどの激痛と苦しみから解放された、爽快な瞬間でもありました。

延長戦を投げぬき、最後に力尽きて、逆転ホームランを打たれた高校野球の投手のような心境でした。

「括約筋くん、悔いはないよ。僕たちは精一杯がんばったのだから。
君は柔軟な筋肉だったよぉぉぉおおお!」


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