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映画評『カード・カウンター』

もうだいぶ前に鑑賞した映画の感想になるので、そのとき感じた新鮮な体験が風化してしまったのが少し残念ですが、書くだけ書きます。

あらすじ

ウィリアム・テルは米国軍刑務所の8年間の服役で、カードを自在に操るテクニックを身につける。出所後はポーカーの札を頭で数えて記憶する“カードカウンティング”を使って、小銭を稼いでカジノからカジノを渡り歩く生活を続けていた。ある日、ギャンブルブローカーのラ・リンダに大金を稼ぐことができるポーカーの大会へ出場することを持ちかけられる。乗り気ではないテルだったが、自らに8年間の服役と罪の意識を植え付けた元凶であるジョン・ゴードと、そのゴードの暗殺を持ちかける若者カークとの出会いで、テルの情念に火が灯る。

感想

本作の監督ポール・シュレイダーは2017年公開の監督作『魂のゆくえ』で喝采を浴び、その後に製作された精神的続編とも言える本作『カード・カウンター』で再びメガホンを取る。シュレイダーの盟友であるパヴェウ・パヴリコフスキ監督の助言によって、長年抱えてきたものが堰を切ったように飛び出し、『魂のゆくえ』『カードカウンター』そして製作を控える『Master Gardener』と次々に結集させていく。

こうしてみると『魂のゆくえ』も『カード・カウンター』も、すごく『タクシードライバー』に似ている。(多くの人が指摘することですが)『タクシードライバー』はスコセッシの監督作なのですが、どこかスコセッシのキャリアの中では異色な感じがして、改めてシュレイダー作品として位置付けた方がしっくり来るのかもしれない。スコセッシがいまいちピンとこない自分なのですが、『タクシードライバー』は大好きだったりするのも、シュレイダーの作家性に惹かれていたからなのだ。

私生活での問題が立て続いたシュレイダーは、ひどい鬱状態に陥ってしまう。不眠症に悩み、深夜に酒瓶を手に車を走らせ街を彷徨う生活。潰瘍も患い、死の危険も感じた彼は、住んでいたロサンゼルス離れることを決意した。そして手がけたのが、たった15日間で書き上げたという『タクシードライバー』の脚本だ。

このようなエピドードからも、スコセッシの作家性よりシュレイダーの作家性が色濃く反映されていることを裏付けられると思います。

シュレイダーは自身のキャリアを評論でスタートさせ、小津ドライヤーブレッソンといった“地味スゴ映画”とでも言いたい監督たちの研究を『聖なる映画』という本にまとめている。僕自身『カード・カウンター』のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)からは、ブレッソンの『田舎司祭の日記』を連想させ、苦行僧めいた禁欲的な佇まいや、日記、独白という共通項がうかがえた。

カメラワークも固定カメラが中心で、非常にオールドなルック。聖なる映画監督たちへのオマージュでもあると思う。その一方、悪夢のように歪んだ映像を実験的に取り入れることもして見せ、静と動のエッジが際立つ。

これらのことは大体パンフで町山さんがバラしていたことで、俺なんか書くことがなくなって困る。

『魂のゆくえ』『タクシードライバー』『カード・カウンター』の主人公たちは、抑圧された怒りというものを、世の中の不正の断罪として昇華する。そこには僕に読み取れないシュレイダーの哲学がある。悪を裁くというシンプルなプロットの中には、単純な解釈を拒むようなところが存在する。罪を犯すことで罪を償おうとする矛盾、シュレイダーの考える正義とは一体どういうものなのか。孤独に葛藤する主人公たちの姿を見ていると、なにか無性に共感を誘うものがある。

パンフレットはこんな感じ。非常にクール。


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