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パパスは何を思うのだろう

国民的RPGである「ドラゴンクエスト」というテレビゲームがある。
今現在までにナンバリングタイトルがⅪ(イレブン)まであり、スピンオフ作品なども多い人気タイトルだ。
先日巷を賑わせた、映画化のニュースもある。人気俳優を多く起用した、フルCGでの映像作品になるそうだ。

その映画化された原作が、シリーズ五作目にあたる「ドラゴンクエストⅤ」である。
「Ⅴ」はファンの間でも最高傑作と評されることも多い作品だ。
もっとも、『ドラクエの最高傑作はなにか』、なんてことをネット上に問いかけてしまうと、議論が白熱して収集がつかなくなってしまうのだけど。

個人的にも、生まれて初めてちゃんとドラクエをプレイしたのがこの『Ⅴ』であった。
ひとつのゲームソフトをしゃぶり尽くすように遊んでいた子供の頃、何度も何度もプレイしたので思い入れが相当に深い。

このドラクエⅤの中で、ふと気になったシーンがある。
イチからあらすじを書こうかとも思ったのだが(というか実際に書いてたのだけど)、これだけ有名な作品だから、ある程度の内容を知っていることを前提として書こうと思う。じゃないとものすごい文字量になってしまうのだ。

気になったのは、幼少期後半のとあるワンシーン。

ビアンカとのお化け退治、ベラとの妖精の国での冒険を経た主人公は、パパスに連れられラインハットへ赴くことになる。
パパスが拠点としていたサンタローズからは大きな川、および関所を通過していく必要がある。関所にはラインハットの兵士が居るが、ラインハット王の命で城に向かっていると告げると、快く道を開けてくれる(このイベントがないと川の向こうには行けない)。
関所を抜けた先には、川の下を掘ったと思われるトンネルがあり、向こう岸へと渡ることが出来る。
トンネルを抜け、向こう岸に着くと川を見渡せるような場所が設けてあり、あまり時間はないが少し川を見せてやろう、とパパスが提案する。
力強い父にひょいと抱えられ肩車される主人公。しばらく川を見る親子。(このくだりはリメイク版のみであるが)

ふと隣をみると老人が居ることに気がつく。
パパスが声を掛けると、老人は「ほっといてくだされ。わしは川の流れを見ながらこの国のゆくすえを案じているだけじゃて…。」と返される。
ここは冷えるからほどほどにされてくださいね、と言葉を返し、ラインハットへと歩みを進める。
…のだが、パパスはまたトンネルの中に入ってしまう。十数歩歩いたところで「おっといかん、ラインハットへ行くんだったな」と思い出し、踵を返すのだ。

この『パパスが道を間違える』イベントは、リメイク版であるPS2版でもきちんと移植されている。
単純に考えれば「いかにも男らしい」パパスの、おっちょこちょいな部分が見て取れるほんわかしたワンシーンなのかもしれない。

が、しかし。ほんとうにそうだろうか。
パパスは、久しぶりに訪れたラインハット領土でも迷わずにサンタローズへ向かっているし、後に分かるが、順路が割と複雑な「サンタローズの洞窟」の深部へ足繁く通っていた。道を間違えるのは、このワンシーンのみなのだ。
つまり、パパスは方向音痴でもなければ、おっちょこちょいでもない。豪快な性格だが、したたかで頭のいい人間だったのではないかと思う。

では何故、道を間違えたのか。
もっと言えば、なぜこのような演出を堀井雄二先生はここに与えたのか。

それは、青年期後半パートに関係してくる。
青年期後半に、過去にタイムリープするイベントがある。目的は、地に落ちた天空城を復活させるためのキーアイテム、「ゴールドオーブ」を入手するためだ。
無事に幼年期の自分からゴールドオーブを入手することに成功し(「ひかるオーブ」とすり替えるのだ)、主人公は現代(青年期後半)へと戻ってくる。
このとき、タイムリープした幼年期時代のサンタローズを歩いて回ることが許される。主人公は真っ先に、父であるパパスに会いに行く。奴隷時代、石化時代を計算するとおよそ16年ぶりに見る父の姿だ。
父の身にこれから起こることを知っている主人公は、感情に任せてパパスに伝える。「ラインハットへは行くな」と。
きっと過去や未来なんてものは考える余裕がなかったのだと思う。世界を救うよりも先に、父を助けたかったのではないかと思う。
しかしパパスはそんな話を冗談だと受け取り、相手にしない。未来から来た自分の息子だということはどうやら信じてもらえそうもない。
だが、それでも自分の息子である。なにか伝わるものがあったのだろう。あるいは、主人公の瞳に妻マーサの面影を見たのかもしれない。

「ラインハットへ行くと何やら良くないことが起きる」

その言葉は、パパスの頭の中に何度も浮かんでいたのかもしれない。間接的ではあるし、感覚的でしかないが、久しぶりに触れたマーサの面影がまだぼんやりと胸に残っている。
だが、幼い息子のため、そして国のため、世界のため。
どこぞのものとも分からない人間の声に耳を貸している余裕は無い。今は目の前のことから歩みを進めるしか無いのだ。

そうした思いでサンタローズを離れ、ラインハットへ歩き出す。
決心はついたものの、やはり妙な胸騒ぎが消えない。何が起ころうとしているのだーーーー

「ほっといてくだされ。わしは川の流れを見ながらこの国のゆくすえを案じているだけじゃて…。」

川の流れ。
パパスの目にはそれがどう映っていただろう。
どこにいるかも分からない天空の勇者。もしかしたら明日には朽ちてしまうかもしれない妻の命。何故か胸に残る名も知らぬ青年の言葉。
ゆくすえ、とはーーー

気付くと、先程歩いてきたトンネルの中を歩いていた。

「おっといかん、ラインハットへ行くんだったな」

パパスは振り返り、光降り注ぐトンネルの出口へ向かう。
己の運命を知ってか知らずか。ざわつく胸の音に気づかないふりをしながら。

…なんてことを、あのワンシーンに感じてしまう。
切ない。苦しい。

後にエビルマウンテンで出会う主人公とその子供らに彼は意識だけの存在となってらこう伝える。

「(主人公)よ。私たちはいつでもお前たちを見守っている。」と。

親から子、そして孫へと引き継がれていく壮大なストーリー。
やはり、ドラクエⅤは名作だなと思う。

未プレイの人は、是非ともプレイして頂きたい、ゲーム史に残る名作である。

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