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「霊感商法等の悪質商法対策検討会」に消費生活相談員として願うこと

 カルト教団統一教会問題への速やかな対応を求める声を受け、消費者庁「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」がスタートしました。

 法律にはじめて「霊感」という言葉が記されたのは、2018年に改正された消費者契約法。消費者庁の解説によれば、消費者契約法における「霊感」とは、除霊、災いの除去や運勢の改善など、超自然的な現象を実現する能力、です。この法改正で、霊感商法等で不安をあおる告知による消費者契約が取消可能になりました。

 でも、「霊感商法」がなんでも取り消せるわけではありません。取り消せるのは、事業者が「霊感」等で、消費者にとってこのままでは重大な不利益を与える(病気になり死んでしまう等)事態が生じる旨を示して、不安をあおり合理的な判断ができない状態に陥った消費者が契約した場合ならば、という限定的なもの。

 「霊感商法」のような悪質商法の手口は「開運商法」とも呼ばれます。「霊感商法」「開運商法」のご相談を、私もこれまでいくつも受けました。その事例のひとつを、2017年に、雑誌「理科の探検」のニセ科学特集に寄せた記事でご紹介しています。
その記事がこちら。

「理科の探検」2017年4月号 https://www.amazon.co.jp/dp/B01NCNWSST

 ご相談者は若くて可愛らしい、軽度の知的障害をお持ちの女性。ある広告をきっかけに「開運ペンダント」を購入したところ、そのあと販売業者が電話を架けてきて、たくみに彼女の身辺のことや悩みを聞きだしたようです。

 悩みを解決する力をもつなどと勧められ、開運ブレスレッドやパワーストーンを次々と購入してしまい、代金を請求されているが支払いできなくなったとのこと。障がい者支援窓口を通じてご相談に来られ、持参された総額約200万円の大量の「開運アクセサリー類」は、どれも安い石とメッキの粗悪なものでした。

 それだけの商品を購入するにあたり、どんな勧誘や説明があったのか、購入者であるご相談者はあまり覚えておられません。それでもなんとかお話をうかがい、契約の経緯をまとめ、契約先と交渉することが難しいご相談者に代わって、消費生活相談員として事業者に連絡し、斡旋交渉を行いました。しかし、ここで詳しくは書きませんが、この事例は契約取消などの解決には至っていません。

 では、もしこのご相談が消費者契約法の改正後の契約であれば、契約を取消することができたでしょうか。残念ながら消費者契約法は、(訪問販売やマルチ商法等を規制する)特定商取引法と違い、クーリング・オフという強い民事ルールもなければ、行政罰も刑事罰もありません。悪質な事業者であればなおさら、消費生活センターが消費者契約法を元に契約取消を求めても、応じてもらうのは困難なよう思います。ましてこの事例では。

 霊感商法・開運商法は、消費者の弱みにつけこむ、典型的な悪質商法だといえるでしょう。今はつけこまれるような弱みがないと思っておられる方も、いつどんな形で弱い立場になるとも限りません。誰もが必ず老いていくもの。

 この高齢化する社会で、認知能力の低下した高齢者の消費者被害が深刻です。更に本年から民法改正により成年年齢が引き下げられ、若年者の消費者被害も懸念されています。ですので、2018年の消費者契約法改正には、ひろく執拗な勧誘、威迫的な勧誘、迷惑な勧誘による契約を取り消せることが求められていました(それがなぜか骨抜きの法改正となったのです。その話はいずれまた)。

 消費者庁「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」は、長年消費者委員会委員長を務められた、余人をもってかえがたい消費者法レジェンド・河上正二先生が座長、「しずおか消費者ユニオン」会長であり消費者法のスペシャリストの宮下修一先生が副座長、また、かねてより消費者庁の会議で「消費者の心理状態に着目した規定」導入について提言くださっている心理学者の西田公昭先生ほか、素晴らしい方々が委員としてご参加されています。

 誰しもが抱える弱さにつけこむ霊感商法等悪質商法を撲滅し、カルト教団統一教会の霊感商法被害救済と防止のための検討会で、どのような議論がされるか注目しています。そしてそのご議論が、霊感商法など悪質業者に負けることがない、強く優しい消費者保護ルール創設に繋がって欲しいと願ってます。