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改めて、科学的知見に基づいた信頼される消費者教育のために。

夏、真っ盛り。課題レポートの季節ですね!
先日私も、以前入選した『私の提言』を土台に、「消費者教育」をテーマに短いレポートを書きました。
「消費者教育」を担うべき行政で、例えば「EM菌」のように、倫理の論理性も乏しく信頼される研究も皆無であり疑似科学であると評されるものであっても、科学的根拠も示さず「汚染物を浄化するパワーを持っています」とお墨付きを与えている現状など、なんとかしたいなぁと思って書いたレポート、noteでも共有いたします。
以下にご紹介。


レポート テーマ「消費者教育」

 筆者は2017年に、公益社団法人消費者関連専門家会議「ACAP 消費者問題に関する『私の提言』」において、「科学的知見に基づいた信頼される消費者教育のために」と題し、以下の3つの提言を示した。

 提言1.独立行政法人国民生活センターに、地方自治体消費生活センターに科学的根拠に基づく消費者教育への助言を行う相談窓口を設置すること。
 提言2.消費者教育推進地方協議会の構成員に学識経験者として科学者等を設置し、科学的知見に基づいた消費者教育を行うよう努めること。
 提言3.消費生活センター専門相談員と消費者教育推進地域協議会による消費者トラブルに関する事例研究会や意見交換会を行うこと。

 

「消費者庁のキッチン」に掲載されていた<素手でかき回して作る>酵素ジュース(削除済)
こんな衛生上問題がある「酵素ジュース」ですが未だにメディアに登場するようです。

これらは、消費者教育が、消費者契約の問題から製品安全や情報リテラシー、更に環境問題といった、大変幅広く、それぞれの分野において高度な専門性が求められるものであるにも関わらず、消費者教育を行う立場にある消費者行政や消費者団体は科学の専門知に欠け、非科学的と批判される問題(例えば「消費者庁のキッチン」で衛生上問題が指摘される「酵素ジュース」を紹介し炎上するなど)を起こしているという状況の改善を考え、行ったものであった。このレポートでは、当時指摘した状況は改善しているのかを考察し、改善されていないとすれば改めて、科学的知見に基づいた信頼される消費者教育のために必要なことを考えてみたい。

EM菌 総評 疑似科学

 まず残念なことに、例えば「EM菌」のように、倫理の論理性も乏しく信頼される研究も皆無であり疑似科学であると評されるものであっても、行政が科学的根拠も示さず「汚染物を浄化するパワーを持っています」とお墨付きを与える事例学校現場で環境ISO認定校の活動の一環としてプール清掃にEM菌を使用し「排水したプールの水に大量のEM菌が含まれるので、流れた先の川や沼を浄化する」などうたう事例はいまだに絶えない。しかもこれらの事例は、消費者庁が新未来創造戦略本部を置く徳島県内で行われている。

「善玉菌のかたまりであり、汚染物を浄化するパワーを持っています。」
行政が疑似科学にお墨付きを与えてしまう鳴門市の事例。

 ほかにも、消費者行政が非科学的と批判される問題も相変わらず起こっている。例えば、2019年には、東京都多摩消費生活センターが、科学的根拠がないと指摘されている健康法「マクロビオテック」講座を「食育講座」として企画しTwitterで広報したものが、批判され炎上した(講座は中止となった)。これらのことから、消費者行政や消費者団体が非科学的と批判される問題は、改善されたとはいえないといえる。

 「私の提言」にも記したが、問題が改善しないのは、科学的な知見に基づき運営することが困難な、消費者行政や消費者団体の脆弱な体制に原因がある。その体制へのサポートを求める意味で、上記の提言1から3を行ったが、いずれも実現には至っていない。
 ただ、ありがたいことに、この提言を参考としている研究がある。山本・石川(2019)は、「疑似科学性が疑われる商品・言説に対して,その真偽を自ら判断できるような消費者教育が不可欠な社会状況」であるとし、一般消費者が、より平易に疑似科学性の判断を行えることを目的としたオンライン教材の開発を行い、かつその効果を測定しその有効性が期待できると記している。現役の消費生活専門員から「科学的根拠に基づく消費者教育」の必要性が提言されていることを深刻であると受け止め、研究がなされたことは、この拙い「提言」を記した筆者として、救われる思いである。

 山本・石川らとともにGijika.comに携わった菊池(2022)は、実証データをもとにし合理的な判断をしたつもりで誤った結果に至った疑似科学は、人がどこで誤ったかを知る上で格好の教育素材になるとし、疑似科学からの批判的思考入門を提言している。菊池の提言にある批判的思考は、現代のような高度情報化社会に生きていくため必要な思考スキルである。

 先に述べたように、消費者行政や消費者団体が非科学的と批判される問題は改善されていない。非科学的と批判された消費者行政や消費者団体がなぜ疑似科学に陥ったのか、どこで判断を誤ったのか、それらの消費者行政や消費者団体への、批判的思考力の教育が必要ではないだろうか。科学的知見に基づいた信頼される消費者教育のためには、消費者への教育以前に、疑似科学に陥っている消費者行政や消費者団体への教育が必要であることを提言したい。そして、その教育は消費者行政の司令塔である消費者庁が推進すべきであろうと考える。
 
 参考資料

・山本輝太郎,石川幹人(2019)「疑似科学的言説に対する消費者リテラシー向上を目的としたオンライン教材の開発-クラウドソーシングを用いたランダム化比較対照試験による検証-」『消費者教育』39巻pp.43-53.
・菊池聡(2022)「疑似科学を題材とした批判的思考促進の試み」『国民生活研究』第62巻第2号(2022年12月)pp.22-37.