[有料化済み]大喜利の技法(2021年2月24日、付録を追記しました)

本稿は、これまで書いてきたnoteの記事のうち、長きに渡って閲覧いただいております「大喜利回答パターン」と同様の趣旨のnoteです。本稿では、より実践を意識したご説明をしたいと思います。その背景となるパターン等の考え方については、拙稿「大喜利回答パターン」等の記事をお読みください。無料です。

※本稿は以前無料で公開していたものを有料化したものです。ご購入の際にはご注意ください。

というのも、「大喜利回答パターン」では、各パターンのバックグラウンドとなる考え方を紹介することを主眼としていたため、できるだけパターンの特色を独立して扱わざるをえなかったという事情があります。これに対し本稿では、実際の回答作成における思考プロセスを描き、そこにおいて各パターンをどのように用いるかという実践面でのご説明をしたいと思います。

次の目次の順番にしたがって回答を作成します。

1.お題の"問いの形式"を特定する

次のようなお題を考えてみましょう。

お題A:「このゾンビ、もしかしてお父さん?」どうしてそう思った?

第一に、注目しなければならないのは、お題の問いの形式です。いわゆる5W1Hのうち、いずれの形式の問いになっているのかによって、回答の形式も自ずから定まります。

お題Aでは、「どうして」とありますが、「なぜ」や「何があった?」などとも読み替えをできるタイプの問いかけですね。このように、読み替えの利く問いについては、さほど気にする必要はなさそうです(先取りして書くと「定時まで会社にいた」など「いつ」、「どこで」、「何を」を組み合わせて回答することも許されるでしょう)。すなわち、5W1Hのいずれの、あるいはどの組み合わせに対する回答であるかについて制限はないと考えてよいでしょう。

なお、反対に、「どこにあった?」や穴埋めタイプではこの制限があるため、これらの要求にかなう形式の回答をしなければなりません(ただし、制限があることで、かえって形式をズラすというテクニックが使えることもあります)。

2.お題の"素材"を抽出する

お題について、第二に注目しなければならないとすれば、お題の登場人物やその背景(イメージを含む)が何であるかです。これらは回答を作るなかで前提=フリとして機能するものですから、オチとなる回答に活かさない手はありません。

お題Aでは、ゾンビと(ゾンビかもしれない)父親がメインの登場人物といってよいでしょう。ゾンビのイメージは、たとえば「歩くのが遅い」「アーとかウーしか言わない」「腐った臭いがする」「怖い」「たくさんいそう」「頭悪そう」など、様々でしょう。他方、父親のイメージは、一般に「サラリーマンしてる」「傘でゴルフスイング練習してる」「太ってる」「ゴミ出しやってくれる」「リビングで寝てる」「いびきがうるさい」「娘に洗濯物分けられてそう」「腐った臭いがする」などでしょうか。最後のは冗談としても、まあその他は共感してもらえるのではないでしょうか。

このように、登場人物及びそのイメージを抽出すると、どのような回答パターンが使えそうか見えてきます。上記のイメージには、それぞれの登場人物の「あるある(直球パターン)」にそのまま適用できるものもありますが、ここでさらに別の回答パターンについても検討してみましょう。

はじめに思いつきそうなのは、やはり「あるある(直球パターン)」でしょう。先程湧いたイメージにつき、さらにリアリティのある詳細を考えると、聴き手に共感を生み出しやすそうです。「サラリーマンしてる」というところに、さらにパターン「風が吹けば桶屋が儲かる」を適用すると、"サラリーマン→上下関係→社長にヘイコラしてる→社長のカバン持ちやってる"ところくらいまでは連想できます。そうすると、回答としては、ゾンビ要素を加味して「社長ゾンビのカバン持ちやってる」という、これまた別のパターン「前提状況の変更」的な回答を作成できました。同様に、「風が吹けば桶屋が儲かる」により、「定時までは会社にいる」が導かれ、ゾンビは「頭悪そう」なのに時間は遵守するというギャップを生む回答として「定時まで会社から出てこない」というストレートな「あるある」の回答を作成できます。他にも色々できそうなので、皆さんもやってみてください。

他に、「あるある」以外で別のパターンを用いて、回答を作ることもできるでしょうか。答えから言うと、難易度は高いです。たとえば、ゾンビは「腐った臭いがする」キタナイものですが、その「キタナ」さや「臭い」について、パターン「質的量的変化」または「風が吹けば桶屋が儲かる」を用いて、「三日前と同じ服着てる」や「枕がクサい」などに変化させることができるでしょう。後者については、文脈に合わせて「お父さんの枕と同じニオイがする」だとかが考えられるでしょうか。

このように、ここでは「父親」という着地点が見えてしまっているため、結局「父親」チックな回答しか出てこない点に注意しましょう。登場人物が二人以上の場合、登場人物らを結びつけるには、「あるある」に頼らざるをえない場合がままあります。ただし、「ニオイ」は両者が共通して持つイメージに含まれるものですから、他の要素に着目することで辛うじて「あるある」以外を作成できます。質的量的変化(とくに時間軸の変更)を適用することで、「今朝の時点で半分ゾンビやった」「顔色以外あんまり変わってない」「顔だけはそのまま」「薄々気がついてた」「朝食の隠し味にTウイルス入れといたから」などはできるとは思います。

このように、お題の素材によって使えるパターンが変わるので、素材の抽出は極めて重要な要素といえるでしょう。たとえば、「ゾンビ」の登場する、次のようなお題ではどのようなパターンが使えるでしょうか。

お題B:「もしかしてアイツ、ゾンビじゃないか?」どうしてそう思った?

お題Bは、「アイツ」に何の背景もありませんから、お題Aに比べて「ゾンビ」の主役性が増しているわけです。そうすると、「あるある(変化球パターン)」を適用して「ゾンビ専用車両から出てきた」、パターン「質的量的変化」なら「一昨日確かに殺したはず」、パターン「風が吹けば桶屋が儲かる」なら「最近ファブリーズの減りが早すぎる」など、様々なパターンによるアプローチが可能です。

3.回答案を言い換える

回答作成に用いるパターンは、回答ごとにひとつだけ、というものではなく、複数回、数種類の組み合わせで威力を発揮します。次のようなお題を考えてみましょう。

お題C:こんな卒業旅行は嫌だ

問いの形式としては「どのような」や「何があった」に対する回答を要求するお題ですね。「いつ」や「どこ」への回答もできる、読み替えのできるお題です。自由度の高いお題ですから、5W1Hに着目すると、たとえば「入学式当日決行(いつ)」、「7泊8日北方領土弾丸ツアー(どこに)」、「ほぼ初対面の面子(誰と)」、「予定表に「密入国」って書いてある(どのように)」などがパッと思いつきますね。

問題なのは、たとえば「死」を含む回答を思いつき、「コナン御一行と遭遇した」と言い換えた場合です。なんかはこのままでは確実におもしろくありません。「あーはいはい、「死ぬ」って回答をスタンダードに言い換えたのね」で終わりです。それなら素直に「8人死んだ」とかでよいのではないか、と思われる、死とイコールで結びついたコナンを持ち出しているだけの回答になってしまいます。

「死ぬ」をさらに換言して「コナン」という新要素を盛り込むまでは悪くありませんが、ここで立ち止まっていてはその他大勢の自称お笑い通(僕もですけど)と差別化できません。差別化するためには、ここでさらに表現を変えられないか模索する必要があります。

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