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ピストサイクルに付された「LEADER BIKES」

判決    :令和2年(ワ)第4272号 商標権侵害差止等請求事件
 ※関連事件 令和3年(ワ)第5999号 不正競争行為差止等請求事件
言い渡し日:令和4年12月5日
裁判所  :大阪地方裁判所
※商標権・判示事項関連部分の概要。事件の詳細は判決を確認ください。
※サムネイル内使用の画像を含む判決関連画像は判決別紙より。

【原告(権利者)】
フェダル エンタープライズ カンパニー リミテッド(台湾)(慧大有限公司)
●自転車及び自転車用部品等の輸出、販売等を目的とし、台湾法の下で設立された法人
●登録商標:第5568215号(平成25年3月22日)

第12類 「自転車、自転車用フレーム、その他の自転車の部品及び附属品」
●平成11年頃から、米国でLeader Bike, LLC(旧リーダー社)が競技用タイプの自転車に付して使用。旧リーダー社の創業者が日本で商標登録。旧リーダー社が破産し、平成29年、本件を含む米国以外の国及び地域における商標権とそれに関連する事業ののれん(goodwill)、自転車製品の鋳型等を、旧リーダー社向け自転車を製造していた商標権者に譲渡。米国における権利は、商標権者の息子が代表者である新リーダー社に譲渡。
●平成29年、税関に輸入差し止め申立て。

【被告(使用者)】
株式会社BROTURES
●自転車販売店の経営、外国製自転車、自転車用品の輸入販売代理店業等を目的とする株式会社
●平成22年頃から旧リーダー社の自転車を輸入販売。平成23年に旧リーダー社の自転車の独占販売店契約。平成27年頃、旧リーダー社が倒産状態になり商品供給が途絶えたため、第三者から(登録商標に類似する)使用標章が付された自転車を輸入販売。
●平成30年、輸入しようとした商品が税関で輸入してはならない貨物に該当するとされたため、自転車から使用標章を削除する作業を行った上で輸入した。
●使用標章

【主な争点】
(1) 先使用権(商標法32条1項)が成立するか
(2) 権利濫用該当性(抗弁)
 ア 不当な目的による商標権行使に係る権利濫用該当性
 イ 商標法4条1項11号を理由とする権利濫用該当性
(3) 商標権侵害に係る損害の発生及び損害額

【当事者の主張】

<先使用権の成立>

※32条1項:他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

使用者
 使用者が、インターネットでの広報、店舗での顧客とのコミュニケーション、知人・友人を通じた口コミ活動等、地道な宣伝広報活動を続け、日本国内における登録商標を付した自転車の認知度は上がり、商品の売上も上がった。平成22年の仕入れ総額は、194万円程度であったが、平成23年には5503万円に。加えて、平成23年、フラッグショップとして原宿店をオープンし、販路を拡張。これらにより、平成23年頃には、日本国内においては、「LEADER BIKE」といえば使用者の商品と、エンドユーザーに認識されるようになっていた
 また、使用者は、平成24年頃には、少なくとも19の業者に対して登録商標を付した自転車関連商品を卸売するようになり、国内の自転車販売業者の間でも、「LEADER BIKE」といえば使用者の商品という認識が広がった
 よって、使用者は、商標登録出願前から使用標章を使用していた結果、登録商標の出願時において、単に輸入品を取り扱う販売代理店という地位ではなく、自らの主力商品として販売する国内事業者という需要者からの認識を獲得しており、使用標章は、使用商品の販売事業に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたといえる。

商標権者
 使用者が日本において販売していたのは、あくまで旧リーダー社の販売代理店としての行為である。使用者が商品を販売する際も、旧リーダー社が確立した「LEADER」ブランドのイメージ、信用力及び顧客誘引力を利用して販売活動を行ってきたものである。
 需要者及び取引者に「LEADER」ブランドの商品の出所として認識されていたのはあくまでも旧リーダー社であって、使用標章が使用者の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に認識されることはあり得ない。
 使用者は、多数の海外ブランドのピストバイク等を取り扱うセレクトショップであり、取り扱うブランドの一つが「LEADER」ブランドであるにすぎないから、需要者が認識するのは、使用者が「LEADER」ブランドを日本国内の総代理店として取り扱っているということであり、「LEADER」ブランドが使用者自身のブランドであるということではない

<不当な目的による商標権行使に係る権利濫用該当性>
使用者
 使用者は、本件商標が登録出願される以前から、旧リーダー社から「LEADER」ブランドの商品の販売権を獲得し、平成22年から現在に至るまで登録商標を含む「LEADER」ブランドの商品について広報・販売活動を継続してブランディングを行い、日本国内における「LEADER」ブランドの確立に寄与してきたのであり、登録商標を含む「LEADER」ブランドに関する権利が正当に帰属すべき者である
 使用者は、ピストバイク専門店として知られており、「LEADER BIKE」は、自身が価値ある商品として提案し、カスタマイズして売り出す主力商品として知られているから、日本の需要者は、「LEADER BIKE」という商品表示を見たとき、旧リーダー社製の商品として認識するのではなく、使用者の商品として認識する。
商標権者は、旧リーダー社の破産に乗じて本件商標権を獲得したことを奇貨として、使用者を排除して日本国内の「LEADER」ブランドを独占的に使用し、類似商品を販売することによって利益を得ようとする不当な目的で本件商標権を行使している
 本件商標権の行使は、権利の濫用に当たる。

商標権者
 使用者は、現在も「LEADER BIKE 総代理店」と称しているのであって、「LEADER」ブランドは旧リーダー社のブランドであることを前提に販売活動を行ってきたにすぎない。旧リーダー社の代理店を称している上、広告宣伝においても、「LEADER」ブランドが米国の旧リーダー社のブランドであることを全面的に利用している。使用者は、旧リーダー社の許諾の下で商品の販売を行ってきたにすぎないにもかかわらず、旧リーダー社の倒産後即時に「LEADER」ブランドの商品を無断で製造し始め、販売を継続しているのであり、「LEADER」ブランドの乗っ取り行為であり、使用者に「LEADER」ブランドの信用が帰属することはない。
 商標権者は、旧リーダー社の設立当初から、同社に自転車や自転車部品を供給していた製造業者であり、旧リーダー社等の破産手続きにおいて米国以外の国及び地域における「LEADER」ブランドの資産を正当に承継した者である。
 商標権者は、使用者に対しても、「LEADER」ブランドの商品の購入を打診したが、使用者はこれを断り、第三者から輸入し使用標章を付した自転車等の販売を継続しているばかりか、取引先に商標権者の商品が「類似品」であるなどと通知し、商標権者による日本における「LEADER」ブランドの展開を困難にしようとしている。このような使用者に対し、本件商標権を行使することは、本件商標権を含む「LEADER」ブランドに関する資産の譲渡を受けた者としての正当な行為である。

(3)商標法4条1項11号を理由とする権利濫用該当性
使用者
 本件商標は、その出願前に登録された商標(登録第4558386号及び登録第2387164号)に類似しており、かつ、指定商品にも類似性があることから、商標法4条1項11号に違反して登録されたものであり、無効事由がある。出願から5年が経過しているため、無効の抗弁そのものを主張することはできないが、無効事由が存在するような商標に基づく権利行使は権利の濫用に該当する

商標権者:
 無効の抗弁を主張することができないにもかかわらず、本件商標権の行使が権利濫用に当たるとすれば、商標使用の安定化・権利関係の安定化のために除斥期間を設けた商標法47条1項の趣旨を没却することになる。商品又は役務の出所の混同防止のためにすでに商標権が設定されている場合にこれと抵触する商標について登録しないという当然の法理を定めた商標法4条1項11号の趣旨に鑑みても、除斥期間経過後に、先願に係る商標の商標権者ではない使用者に対して権利行使を認めることが、客観的に公正な競争秩序の維持等という商標法の目的に反するものではないから、被告の権利濫用の抗弁は失当である。

<商標権侵害に係る損害の発生及び損害額>
商標権者:
●商標法38条2項の適用について

※商標法38条2項:商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。

 使用者は、販売会社を通じて、日本国内において、使用標章を付した自転車、自転車フレームその他自転車の部品及び附属品を販売している。当該販売会社が登録商標を付した商標権者の商品の販売を開始したのは、平成30年8月頃であり、遅くとも同年5月には注文を受けて商標権者は商品を輸出した。したがって、商標権者は遅くとも同月から日本国内市場に向けた商品の販売を開始していたのであり、平成30年5月以降は使用者との関係で競業関係が成立しており、侵害者の侵害行為による商標権者の損害の発生という商標法38条2項の適用の前提が満たされたというべきである。商標法38条2項の適用は、遅くとも同月からの使用者が受けた利益に対してされるべきである。

●損害額について
(本主張は公開判決では、ほぼ省略)

・商標法38条2項及び3項の重畳適用(予備的主張)
 仮に、被告による非競業期間、営業努力又は被告標章以外の商標による売上貢献の主張により商標法38条2項の推定が覆滅され損害額が減額されるとしても、当該減額分の侵害態様も無許諾の商標使用であることに変わりはない以上、商標権者には、なお侵害者から得べかりし実施料の損失という損害は残る。 したがって、商標法38条2項の主張に基づく損害のうち推定が覆滅された部分については、同条3項の重畳適用が認められるべきであり、本件における実施料相当額の料率は、前記のとおり20%である。

※商標法38条3項:商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

使用者:
●商標法38条2項について
 商標権者が日本国内での商品の販売を開始した平成30年8月の時点では、使用標章を付した商品の販売を終了しており、市場における事業の競合は発生していないので、商標法38条2項の推定の基礎を欠く。
・使用者は、平成29年7月、新しいロゴデザイン(LB ロゴ)を決定し、デザイン業者から海外の LEADER 商品製造工場に対し、今後使用標章を使用しないように、LB ロゴへの変更を指示した。
・使用者は、平成29年10月に輸入した商品を同月に、同年11月に輸入した商品を同年12月に、ブログで紹介しているが、これには LB ロゴが使用されている。同年末から平成30年初に「KAGERO」という商品名の LEADERBIKE2018年モデルの販売を開始しているが、これにも LB ロゴが付されている。
平成30年3月に税関で差止められたのは、海外の LEADER 商品製造工場のミスでチェーンステー部分のみ使用標章が付された状態で出荷されてしまったというイレギュラーな事象である。
・商標権者が指摘するブログで紹介した商品は、平成29年モデルの売れ残りをセールに出したものや、再塗装や部品の組み替えをして限定販売したものを紹介したものであり、平成29年10月以降の売り上げのほとんどは LB ロゴを付した商品を販売したことによるものであって、使用標章を付した商品の販売数は、最大で174台である。

●商標法38条2項に基づく損害額について(主張は公開判決ではほぼ省略)
 使用者は、雑誌媒体やブログ、SNSを通じた地道な広報活動、イベント開催、多店舗展開を通じた市場開発努力、商品のカスタマイズに関する提案力と技術力に裏打ちされた販売力等の営業努力により、ピストバイクの専門店として認知されている。
 「LEADER」ブランドの商品は、太めのアルミ製で三角形の形状のトライアングルフレームの一辺に「LEADER」という太いゴシック体で記された標章のもつ出所識別機能によって需要者に識別されており、これと切り離された使用標章単体では出所識別機能はなく、顧客吸引力がない。


結果は・・・


【裁判所の判断】

<先使用権の成否>
・需要者は、自転車を購入しようとする一般消費者であるが、ピストバイクという専門性の高い自転車であって、それなりに高額な商品であることを踏まえると、趣味・嗜好性に重点を置いて自転車を購入する者が主な需要者といえる。そのような需要者は日本全国に存在すると考えられ、使用者もインターネットを通じて日本全国の需要者に向けて営業活動をしていたものと認められるから、使用標章が需要者の間に広く認識されていたというには、日本全国において周知であることを要するというべきである。
・使用者の輸入量は、一自転車店の扱う嗜好品としての自転車としてはそれなりに多数であって、本件商標出願前に、日本国内で被告標章が付された自転車が多数販売されたということができる。
・しかしながら、本件商標登録出願日時点の被告の店舗数は少なく、卸売先を含めても、日本全国を網羅しているとはいえない。そして、本件商標登録出願前の使用標章を付した宣伝広告は、各店舗の広告のほか、使用者自身のブログやツイッターアカウントでの投稿等にとどまり、使用標章が広く需要者に知られていたことを認めるには足りない
・使用者は、店舗での顧客とのコミュニケーションや口コミ活動等の地道な宣伝活動により需要者に広く知られるに至ったと主張するが、使用者の直営店舗数は少なく、全国の需要者が使用者の店舗を訪問したとは考え難く、いわゆる口コミ活動の影響力が全国の需要者に及んだことを示す客観的な証拠もないから、採用することはできない。
・本件商標登録出願前において、登録商標は、旧リーダー社が商標権者に自転車を製造させるに際して付したものであり、使用者が独自に自転車及び関連商品に標章を付していたものではない。そして、使用者が本件商標を付した旧リーダー社の商品を需要者に紹介するにあたっては、被告に関する記載のない旧リーダー社が作成したカタログが用いられ、需要者に対し、旧リーダー社は米国に本社を置く自転車メーカーであることが示されていた。高額な嗜好性の高い需要が主であり、ブランドイメージが重視されることから、使用者においても、本件商標を付した商品が米国のブランドであることを積極的に表示していたものである。
・使用者は、旧リーダー社以外の海外メーカーのピストバイクも販売しており、海外メーカー製の輸入ピストバイクのセレクトショップとして、各メーカーの標章が付された正規品の完成車やパーツを販売していたほか、各メーカーの標章が付されたパーツを組み合わせた自転車をオリジナルカスタムと称して販売しており、これを需要者に宣伝していた。また、小売りするのみならず、本件商標が付された旧リーダー社の商品を日本国内の他の自転車販売店に卸売りしていた。
・これらの事情によれば、本件商標登録出願の際、需要者において、本件商標は旧リーダー社の商品を表示するものとしてのみ認識されていたものと認められ、これに加えて、セレクトショップを称し、旧リーダー社の商品と競合メーカーの商品を販売し、各メーカーの標章に手を加えずにパーツを組み合わせた商品をも販売していた使用者の業務又はそれに係る商品を表示するものとして認識されていたとは認められない
 なお、使用者の取引先業者の陳述書には、使用者の商品を扱う取引先は、「LEADER BIKE」は使用者が旧リーダー社からライセンスを受けて商品企画、製造、販売を全て担っている商品と認識していた旨の記載があるが、代理店契約に明らかに反する上、使用者すら旧リーダー社を介して工場に指示をしていたと主張しており、客観的にも、使用者において、使用標章を付した商品が旧リーダー社の関与なく使用者独自の企画により中国で製造された商品であることを需要者に知らしめていたことを認めるに足りる証拠はないから、採用の限りでない。
・以上によれば、本件商標の登録出願日時点において、使用標章が商標法32条1項にいう自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた標章であったとは認められず、先使用権を主張する旨の被告の抗弁は、理由がない

<不当な目的による商標権行使に係る権利濫用該当性>
・旧リーダー社との契約上、使用者には商品に独自に登録商標を付す権利はなく、登録出願当時、本件商標の付された商品は旧リーダー社の商品として宣伝され、需要者においても、本件商標は旧リーダー社が自社の商品であることを表示するものとして付したものであると認識していたのであり、平成27年頃に旧リーダー社が倒産状態に陥り、商品の供給が途絶えた後は、使用者において独自に使用標章を付した商品を旧リーダー社製であるかのように装っていたことが認められるから、使用標章に化体する信用は、旧リーダー社に帰属するものであり、「LEADER」ブランドの確立に使用者が貢献したからといって、本件商標権や「LEADER」ブランドに関する権利が使用者に帰属すべきものになるということはできない
・使用者の販売する商品は旧リーダー社の商品以外の海外メーカーの商品もあり、旧リーダー社の商品は被告の卸売先の自転車店でも販売されていたのであるから、本件商標を見た需要者が日本における使用者の商品あるいは販売活動を表示する商標であると認識するとはおよそ考え難い。
・使用者は、本件商標を付した部品を他のメーカーの標章を付した部品と組み合わせて完成車として販売する場合には、(オリジナル)カスタム商品として販売しているのであり、「LEADER BIKE」と称して販売しているわけではないから、需要者において、本件商標が使用者においてカスタマイズして販売する商品であることを表示する商標であると認識するとは認められない。
・使用者は、平成27年頃から、独自に海外工場に製造させて輸入販売する「LEADER BIKE」が旧リーダー社製であるかのように装うばかりでなく、「正規代理店」を称して旧リーダー社との本件販売店契約が存続しているかのように装っていたことが認められ、商標権者が製造した旧リーダー社の正規品と酷似した類似商品を旧リーダー社や商標権者ないし新リーダー社の許諾なく製造し無断で使用標章を付して販売し続けた結果、そのような情を知らない需要者において使用標章が旧リーダー社の商品を表示するものと認識され続けているにすぎないから、到底、使用者が本件商標を含む「LEADER」ブランドに関する権利が正当に帰属すべき者であるとはいえない。
・商標権者は、旧リーダー社の商品の製造元であったのであり、本件商標権や旧リーダー社の商品のブランド力を利用して自己の製造する商品の販売を継続するために、旧リーダー社等の破産手続において管財人を通じて米国の裁判所の許可を受けて本件商標権等を取得することは、何ら不当であるとはいえない。また、使用者が、旧リーダー社に無断で使用標章を付した類似商品を販売し続けており、商標権者が本件商標権の移転登録を受けた後も、使用者が「LEADER BIKES」製品の輸入総代理店であると称して通知書を送付しており、使用標章を付した商品が商標権者の許諾を受けた商品であるかのように誤認させる行動をしているとの状況のもとでは、本件商標権を行使することは、正当な目的に基づくものといえる。
・以上によれば、商標権者の使用者に対する商標権の行使が、権利が正当に帰属すべき者に対する不当な目的による権利行使として権利濫用に当たるとはいえない。

<商標法4条1項11号を理由とする権利濫用該当性>
●登録商標は、商標権の設定登録の日から、使用者が本件訴訟において商標法4条1項11号該当性の主張をするまでに、同号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま5年を経過している。
●商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば、商標権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ、商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項11号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから、この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても、同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。
●商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、商標権侵害訴訟の相手方が同項11号該当性に係る「他人の登録商標」の商標権者であるなどの特段の事情がない限り、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、権利濫用に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。そして、本件においては、使用者は、先行登録商標の商標権者ではなく、使用権の許諾を受けるなどの事情もない全く無関係の者であるから、上記特段の事情があるとはいえず、権利濫用の抗弁を主張することは許されない
●以上によれば、使用者は、本件商標の指定商品と同一の商品に、本件商標と類似する使用標章を使用していると認められ、使用者の抗弁はいずれも成り立たないから、使用者の行為は商標権を侵害するものというべきである。

<商標権侵害に係る損害の発生及び損害額>
●使用者は、本件商標権が移転登録された平成29年10月26日から、自転車及びその部品並びに附属品に使用標章を使用していたことは、商標権を侵害するものである。そして、使用者には当該行為につき過失が推定される(商標法39条、特許法103条)から、使用者は、本件商標権侵害によって原告が被った損害を賠償する義務がある。

●商標法38条2項の適用について
・商標権者に、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、商標法38条2項の適用が認められると解すべきである。そして、商標権者自身が日本国内で事業を行っていない場合でも、販売代理店契約を締結した日本の販売事業者に商品を輸出すれば、日本国内で販売ないし販売の申出が可能な状態となっており、使用者が使用商品を販売することにより、商標権者の商品を販売することが妨げられ、ひいては商標権者の利益が損なわれる関係にあるといえるから、また、商標権者が商品を輸出した日以降も、被告が被告商品を販売していたことは明らかであり、商標権者が販売業者に商品を輸出した日以降の商標権侵害行為に係る損害について、商標法38条2項の適用がある。

● 商標法38条2項に基づく損害額について
ア 被告商品の売上額
・侵害期間に使用者が使用商品の販売により受けた利益の額が商標権者の損害額と推定される。
・原告は、使用者の「LEADER」商品の総売上額を使用製品の売上額と認定すべき旨主張するが、商品名が「LEADER」であっても、使用標章が付されていない商品が少なからず販売されていたことは明らかであり、使用標章を削除して輸入した商品も使用標章が付されない状態で販売されたものと考えられ、「LEADER」商品の総売上額には被告商品ではない商品が相当数含まれていることが明らかであるから、当該売上額をもって被告製品の売上額と認定することはできない。
・使用者は、使用標章が付されていない「LEADER」商品の販売数量ないし売上額と区別された使用商品のみに係る販売数量ないし売上額を明らかにしないが、使用商品は国外で製造された輸入品であり、それほど長期間在庫にとどまることなく販売されることは使用者の自認するところであるから、証拠上認定できる使用商品の在庫数量及び輸入数量から販売数量及び売上額を推認することが相当である。
・標章の変更に関する工場への指示について、誰が誰に宛てて指示を出したものか全く不明であり、被告が現実に輸入した商品との関連性が確認できない上、その指示は徹底されなかったことが明らかである。少なくとも輸入しようとした商品の以前に生産された商品には、使用標章が付されていたものと推認される。
(省略あり)

(6) 推定覆滅事由について
 使用者は、新たなロゴを付した商品を販売するようになってからも「LEADER」関連商品の売り上げに影響がなく、使用者による市場開発努力や営業努力により売上を伸ばしているものであり、「LEADER」ブランドの商品は、太めのアルミ製で三角形の形状のトライアングルフレームの一辺に「LEADER」という太いゴシック体で記された標章の持つ出所識別機能によって需要者に識別されており、使用標章には顧客吸引力がないと主張し、商標法38条2項の推定の95パーセントが覆滅される旨を主張する。  
 しかしながら、使用標章は、使用商品の目立つ位置に表示されており、使用商品を象徴する商標であることが明らかである。また、明らかに目立つ位置に表示されている被告標章があるにもかかわらず、需要者がこれによって商品を識別せず、もっぱら太めのアルミ製のトライアングルフレームのダウンチューブに被告文字標章が付されているという特徴によって商品を識別するとは考え難く、需要者がそのように認識することを裏付ける証拠もない。
 そして、使用商品は、小売価格が1台10万円~20万円以上の高額な商品であって、ピストバイクという趣味・嗜好性の高い商品であるから、需要者にとっては、日本では希少な米国カリフォルニア州で開発された商品であるというブランドイメージが重要であって、乗り心地等の実用的な性能を主として訴求する商品ではないことからすれば、旧リーダー社の商品であることを表示する使用標章の顧客吸引力は極めて高いものというべきであり、被告の主張する事情は、いずれも商標法38条2項の推定を覆滅させるものとはいえない。

●原告は、被告による本件商標権侵害行為と因果関係のある弁護士費用相当損害額として300万円を主張するところ、原告が弁護士を代理人として本件訴訟を追行したことは当裁判所に顕著であり、損害額等を勘案すれば、相当因果関係のある弁護士費用は300万円を下らないものというべきである。

●本件商標権侵害行為について商標法38条2項に基づき推定される損害額5506万円に弁護士費用相当損害額300万円を加えた損害額は、5806万円である。

●選択的主張として、商標法38条3項に基づく損害額を主張するが、前記のとおり同条2項に基づく損害額を上回らないことが明らかである。また、商標権者は、予備的主張として、同項の推定が覆滅された部分について同条3項の適用を主張するが、本件商標移転登録後、本件侵害期間前の期間に販売された使用者商品はないものとして算定しており、同条2項の推定の覆滅も認めていないから、同条3項の適用の余地はない。

<使用標章の使用差止め、予防措置請求>
 使用標章の使用を止め、新たなロゴに変更した旨主張するが、別事件において、使用標章を含む表示が周知の商品等表示であるなどと主張している上、使用標章の使用を止める措置は徹底されておらず、令和4年1月6日時点でも、依然としてウェブサイト上で使用商品が掲載されているから、なお、商品の販売、販売のための展示、輸入を差し止める必要があるものと認められる。また、使用者は使用商品を保有し続けているものと考えられるから、侵害予防措置としての使用商品の廃棄請求及びウェブサイトからの使用標章の削除請求にも理由があるものといえる。


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