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単位を落とすのが怖い女と「宝塚歌劇」

舞台の上手側からせり上がってきた桜木みなとさんを見たとき、あー---もうお終いだと思った。

初めて生で観劇した宝塚、あれはもう何年前だろう。大学でたまたま受講した「演劇学概論」。面白くなくてさっさと辞めてしまおうと何度も思い、しかし意気地なしの私は「単位を落とす」ということが怖くて結局最終授業まで参加した。そこで先生から出された最終レポートが私の人生を変えたのだった。

「何か生の舞台を一つ見て、期末レポートを書いてください」

はぁ~~~~~~~~???無理無理。どうやってチケットとるねん。そしてその時頭に浮かんだのが宝塚だった、というか宝塚しかなかった。というのも、母親が筋金入りの宝塚オタク、いわゆる「ヅカオタ」だったから。あんたも見に行く?チケットあるよと母が言い続けていたのに、どうせベルばらやろ~、いいわぁ、と断っていたそのチケット…今ではそのベルばらさえも愛おしく、スカイステージというCSの宝塚専門チャンネルでやっていれば、今日はアンドレ編か!などと言ってみる始末。こんな未来を誰が予想できただろうか。少なくとも私はできなかった。

まず「宝塚」という名前。明らかに敷居が高そう。お金もかかりそう。同世代のファンがいなさそう。勝手に頭の中で作り上げた偏見たちが大きく大きくなって、きちんと見たこともないくせに「宝塚」は観ない。と結論付けていた。バカ。

しかし私は、前述したとおり「単位を落とすのが怖い女」である。観に行かねばレポートは書けない、すなわち単位がもらえない。観に行くしかない。そしてチケットを手に入れ初観劇の運びとなった。愛月ひかるさんのファンクラブに入っている方からいただいたチケットに書いてあったのは前から10列目のど真ん中。なんの作法もわかっていない当時の私には不釣り合いで、今その席をくれよ、友の会よ!!!!と思う。友の会は、友とか言っておきながら友でも何でもない、血も涙もない赤の他人である。

まぁまぁそんなこんなで観劇し、感激したのです。文字通り、感情が激揺さぶられた。かっこよすぎる、私の理想すぎる。宝塚を一度は観劇した方ならお分かりいただけると思うが、ここで演じられる男というのは「女性が求めているスーパーパーフェクトな男」なのだ。こんな人がいたらなぁ、こんな振る舞いをされたらなぁとかつて空想したそれらすべてを叶えてくれる男役たち!!

私は、舞台の上手側からせり上がってきた桜木みなとさんを見たとき、あー---もうお終いだと思った。

いやもう本当に、なんだあのエネルギーは、体中からほとばしる陽の気配。そのあと様々な男役さんが様々なスタイリッシュパフォーマンスを繰り出したが、私の目は、私のオペラグラスは、桜木みなとさんにくぎ付けだった。横に座る友人の腕をつかみ、あの人だれ!!!!とぎりぎり聞こえないくらいの声で聞いた。迷惑極まりない。驚く聴力の持ち主の彼女は「桜木みなとさん」と言った。

そこから数日は桜木みなとさんで頭がいっぱいだった。どれくらい頭がいっぱいだったかというと、将来男の子がうまれたら「みなと」という名前にしようと考えるくらい。気持ち悪いですね。今考えても話題の飛躍のすさまじいことこの上ない。結婚すらしていない、というか見込みのない大学生の考えたことである。でもまぁそこから「宝塚グラフ」やら「歌劇」やら、書店でアルバイトしていた私は、ここぞとばかりに社割を活用し毎月購読した。宝塚を知ってほしいと思い、入荷した宝塚関連の本をきれいにラッピングし、こっそり手前に平積みしたり勝手なことをした。店長さん、きっと気づいていたと思うけどごめんなさい。本当に毎日が楽しくなって、宝塚を知る前の私はどうやって生きていたのだろう…と思うまでになった。

それから数年。やはり桜木みなとさんが一番好きだし、宙組が大好き。宝塚が大好き。彼女たちが笑顔で舞い踊り、力強くセリフを読み上げる姿を見ると、なんかもう本当に心の底から、また頑張ろうという気持ちが湧いてくる。あんなにハードな予定をこなして、容赦ない組替えがあって、それでも笑顔で、こんなに頑張っている人が目の前にいて、なぜ私が頑張れない。頑張るしかないでしょう!大げさに聞こえるかもしれないが、桜木みなとさんがああやって笑うから、私も一生懸命笑うのだ。

いやー--あの時、単位を落としたくないというあのよくわからない考えに囚われていてよかったな、私。じゃないと、「えー、生で見るのめんどくさいなー、まぁ違う科目で単位取ればいいか」とかなんとか言って宝塚を観る機会を捨ててしまっていたことだろう。以前の記事で、自分の完璧主義さに辟易としたこと、こんな性質捨ててしまいたいと散々ディスったけども、いい一面もあったのだなと、今さらにして気づく。

愛してる、宝塚。きっと今、コロナの壁やら、「不要不急」という言葉に阻まれることが多いと思うけれど、私をこんなにも力強くさせてくれたこの素晴らしい芸術、絶対に離れたりしない。なくなったりしない。

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