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【司法書士が解説】相続登記と登記名義人表示変更登記の義務化で注意すべき4つのポイント

不動産を所有している方が亡くなった場合にする登記を相続登記といい、住所や氏名(会社法人も含む)が変わった場合にする登記を登記名義人表示変更登記(以下、便宜上、住所氏名変更登記とします。)といいます。

いままでは、これらの登記は任意であり、登記をしなくても法律上は問題ありませんでした。
しかし、登記が義務ではないことから、現在の正確な所有者が登記簿に反映されておらず、不動産取引や公共事業に大きな影響を及ぼしています。

当記事では、相続登記と住所氏名変更登記が義務化となった理由・背景、義務化の時期や新制度の内容を解説しています。

当記事を読んでいただければ、以下のことを理解することができます。

 ・相続登記と登記名義人表示変更登記が義務化に至った背景
 ・義務化の時期や詳細
 ・義務化に伴い新しく始まる制度について

今後は、相続や住所・氏名の変更が発生したら登記をしなければなりません。
当記事を読んで相続登記と住所氏名変更登記の義務化に備えましょう。


登記の義務化とは

相続や住所氏名の変更を長期間放置すると現在の所有者を正確に把握できません。
特に土地について現在の所有者が不明であることが社会問題となっており、これを所有者不明土地問題といいます。

相続登記と住所氏名変更登記の義務化は所有者不明土地問題を解消するための解決策です。
義務化開始の日付は以下のとおりです。
     相続登記:2024年4月1日から
 住所氏名変更登記:2026年4月1日から

 
 
 

所有者不明土地問題とは

相続登記と住所氏名変更登記が義務化となった背景には上述のとおり、所有者不明土地問題が深刻化したことにあります。
以下、所有者不明土地問題の背景と問題点を解説します。

所有者不明土地問題の背景

・相続登記や住所氏名変更登記を放置しても不利益がない
 相続や住所変更が発生しても法務局から不動産登記をするよう促されるこ 
 ともなく、登記をしないことに対する罰則規定もないことから登記を申請
 する必要性も緊急性も少ないといえます。
 
・相続の繰り返しにより相続人が雪だるま式に増加している
 相続登記の長期間放置により、次々と相続が発生して不動産の所有者が増
 加します。
 相続の連続発生により所有者が増えることは、現在の所有者を把握するこ
 とを困難にします。
 
 

所有者不明土地問題の問題点

現在の所有者が誰かわからないと以下のような問題・トラブルが発生する可能性があります。

・管理不全による近隣住民間のトラブル
 所有者が不明である土地は管理されないまま放置されている場合がほとん
 どです。管理が行き届かないと、草木の越境や虫の発生によるトラブルが
 起こる可能性があります。
 所有者の所在が不明だと問題解消のための請求ができず、トラブル解決を
 困難なものにしています。

・不動産取引の阻害
 現在の所有者が不明だと不動産の買い取りができず、土地開発や公共事業
 に遅れが発生し、悪影響を及ぼします。

・所有者把握の困難化
 相続が次々と発生すると相続登記に必要な戸籍が膨大となり、登記簿に現   
 在の所有者を反映することが困難です。
 相続人の探索に費用と時間がかかることにより、上述の不動産取引の阻害
 へとつながります。
 今後、超高齢化社会に進展すると見込まれており、相続発生件数の増加に
 伴い、所有者不明土地問題はますます深刻化するといえます。


登記義務化に伴い新たに始まる制度

相続登記と住所氏名変更登記が義務化されることに伴い新たな制度が始まります。いずれの制度も所有者不明土地問題を解消するための制度です。
以下、新制度について解説します。

相続人申告登記

相続人申告登記とは、相続登記の申請義務を簡単に果たすことを認める登記です。
以下の内容を法務局(登記官)に申し出ることで、申請義務を果たしたとみなされます。

①不動産の名義人について相続が開始したこと
②その相続人について自らが相続人であること

上記の内容を申出ることによって申し出た相続人のみ申請義務を果たしたとみなされます。
申告登記をするにあたって、相続人が複数いる場合でも他の相続人の同意は不要です。
また、自らの申告だけでなく他の相続人から委任を受けて他の相続人の申告登記を代理で申請することも可能です。

相続登記の場合は被相続人の死亡から出生まで遡った戸籍すべてと相続人全員の現在戸籍が必要であるのに対し、申告登記に必要な書類は、申告する相続人の現在戸籍だけです。
必要書類の観点からも相続人の負担を軽減しようという狙いがあります。

所有不動産記録証明制度

所有者不動産記録証明制度とは、登記官によって被相続人が所有者として登記されている不動産をリスト化し、証明する制度です。
相続登記の申請義務化に伴い、①被相続人名義の不動産を把握する、②当事者の負担軽減と登記の漏れを防止する目的で新設されました。

似たような趣旨の書類として名寄帳があります。
しかし、名寄帳は各自治体ごとにその自治体内での被相続人名義の不動産だけをリスト化したにすぎません。
所有不動産記録証明制度は、各自治体の不動産しか網羅していなかった名寄帳を全国版にアップグレードした制度といえます。

所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示

所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示は、不動産の所有者に相続が発生した場合、相続人に関する登記情報更新を図るための新制度です。

登記官が住基ネットなど他の公的機関から取得した死亡に関する情報に基づき、不動産登記に所有者が死亡した旨を符号によって表します。

所有者死亡の情報を登記簿にひもづけることにより、所有者の情報を更新し、所有者不明となることを防ぐねらいです。

職権による住所等の変更登記

住所変更登記の義務履行をより確実なものとするために、法務局が自らその権限で(=職権で)住所氏名変更登記をする制度です。
ただし、住所氏名は重大な個人情報なので、登記官が職権でできるのは本人による申出があるときに限ります。


義務化で注意すべき3つのポイント

相続や住所氏名変更登記が義務化されることを理解しているだけでは、不十分です。
以下では、義務化に関連して特に注意すべきポイントを解説します。

ポイント①過去の相続、住所氏名変更も対象となる

相続登記と住所氏名変更登記を申請すべき期間はそれぞれ以下のとおりです。
    相続⇒相続の開始を知り、かつ相続によって不動産の所有権を取得
       したことを知った日から3年以内
住所氏名変更⇒住所等の変更日から2年以内

注意点は、過去に発生した相続や住所変更も対象となることです。

    過去の相続⇒次のいずれか遅い日から3年以内
          ①2024年4月1日
          ②不動産を相続したことを知ったとき
過去の住所氏名変更⇒2026年4月1日から2年以内

なお、相続登記について遺言書がある場合、遺言によって不動産を取得した相続人がその所有権取得を知った日から3年以内に遺言に沿った登記申請をする必要があります。


ポイント②義務を履行しないと罰則の対象となる 

義務ではなかった登記を強制させるため、罰則が設けられます。

    相続登記⇒正当な理由なく義務に違反したことに対し10万円以下
         の過料
住所氏名変更登記⇒正当な理由なく義務に違反したことに対し5万円以下の
         過料

過料とは行政罰の一種で、金銭の支払いを強制する点では罰金と同じです。
ただし、罰金は刑事裁判を経て有罪が確定した後に科されるのに対し、過料は刑事裁判を経ないため前科もつきません。
ただし、過料を支払わないことに対して個人の財産を差押えられる可能性はありますので、注意が必要です。

「正当な理由」については今後、通達等であらかじめ具体化される予定で、以下のような例が想定されています。

 相続登記の場合
 ・相続が次々と発生しており、相続登記に必要な戸籍謄本等の収集に時間 
  がかかる場合
 ・遺言書がある場合で遺言書の有効性につき争いがある場合
 ・相続登記を申請する義務を負う相続人が重大な事故病気によりすぐに申   
  請できない場合

住所変更登記も上記のような理由で申請が難しい場合を正当な理由として想定していますが、詳細については今後具体化される予定です。

ポイント③遺産分割協議が終了していない相続も義務の対象

遺産分割協議があった場合、以下のような特別ルールがあります。

 ・3年以内に遺産分割が成立した場合
  遺産分割内容に沿った相続登記を申請すれば問題ありません。
  ただし、申請が困難な場合は、3年以内に相続人申告登記の申出を行っ
  たうえで、遺産分割協議の成立から3年以内に協議内容に沿った相続登
  記を申請する必要があります。
 
 ・3年以内に遺産分割が成立しない場合
  まずは3年以内に相続人申告登記の申出を行います。
  その後遺産分割協議が完了すれば協議の日から3年以内に協議内容に沿
  った相続登記をしなければなりません。

まとめ 相続や住所氏名に変更が発生ししたら登記を忘れずに!

登記そのものが一般的になじみが低い制度なので、義務化や新制度が始まっても相続や住所氏名の変更が発生したとしても登記をしなければならないという意識は芽生えないでしょう。
まずは、相続や住所氏名変更が発生したら登記をする!という意識を持つことから始めましょう。

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