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膨大な時間

先日、グランマ・モーゼス展へ行ってきた。

世田谷にある砧公園の中にある美術館なのだが、日曜ということもありすごい人出だ。
季節が冬から春に変わり始めたポカポカ陽気の公園ではキャッチボール、バトミントン、ピクニックなどを満喫している家族連れが多く、世田谷美術館に入ると同じように家族連れが多かった。これだけ家族連れが多い美術館は初めてで、公園と美術館の境目がない感じが新鮮である。

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グランマ・モーゼスは、無名な農夫から、70代で本格的に絵を描き始め、80歳の時ニューヨークで初めての個展をひらくという、特殊な経歴である。

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絵本のようなタッチで、農場での四季の様子、結婚式、収穫期やクリスマスなどの行事を描いている。
広大な風景はなんだか懐かしさがあり、また行事という非日常で人々の感情が動くテーマで描いているため、共感しやすいのだろう。だからこそ、これだけ家族連れが多いのかもしれない。

グランマ・モーゼスは晩年で脚光を浴び、亡くなる101歳まで絵を描き続けたのだが、このように晩年まで活躍した女性は他にもいる。
少し前に六本木の森美術館で開催された「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力ー世界の女性」へ行ってきた。

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世界各地で挑戦をし続ける70代以上の女性アーティスト16名に注目したもので、全員が50年以上のキャリアを持つという展覧会である。
この展覧会はなかなかすごく、はっきり言って素人がふらっと入るとなんだか分からないものが多く並んでいるのだ。
その中で日本人のアーティストもいて、三島喜美代さんが面白かった。ざっくり言えば陶器でゴミを作っているのだ。紹介によると、

三島は「どんな情報も読み終わった途端に全部ゴミになる」と考え、「現代社会に氾濫する膨大な情報に対する不安感や恐怖感」を覚えたといいます。〜省略〜三島は自身の創作について「ゴミを一生懸命作っている」と言います。その独自性ゆえに、美術や工芸といった従来の枠組みに収まらなかったことで評価が遅れていましたが、常に社会に向き合い、その本質を捉え続けてきた意義と重要性が、いまようやく明らかにされつつあります。

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[森美術館ホームページより]

これは全て一つ一つ陶器で作っているのだ。
現在89歳で大阪生まれの見た目は普通のおばあちゃんなのだが、その三島さんがゴミを一生懸命作っているという、このかっこよさったらない。

カルメン・ヘルラも素敵だった。

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[森美術館ホームページより]

紹介文によると、

流行が激しく移り変わるアート界で、頑なに幾何学の抽象絵画を制作してきたヘレラの活動は70年に及びます。精密な線と形が織りなす作品には、長い歳月によって研ぎ澄まされた厳格さとしなやかさが共存しています。105歳になる現在も、これまでの絵画シリーズに加え、大型のパブリック・アートを発表するなど、精力的に創作を続けています。

作品を実際に目の当たりにすると、分からないは分からないのだが、この人はこれが好きなんだろうなと伝わってくるのだ。この色、この線が「どう、いいだろう!?」てな具合で、アピールしてくる。

この展覧会のアーティスト達は自分はこれでやっていくんだ!と決めて何十年という膨大な時間をかけて作品を作り上げてきたのだ。評価されなくても、批判されても続けてきたわけだ。並大抵の精神力ではできない。それが伝わってくるからこそ素晴らしい。
僕も落語家としてやっていく上で、これでいく!これが好きだ!という思いでやろうとしてもこれが非常に難しい。お客さんだってそういうのはあんまり求めていないだろう。だが、この迷いのないアーティストたちの作品をみて、とても刺激をうけた。

昇りんがなんだか最近変わったなと思った方がいれば、そういうことである。





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