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最恐のグルメ王と一緒に

「一緒に美術館へ行きませんか?」

とある後輩の前座さんに誘われた。
みんなそうだと思うのだが、やはり落語家の私も後輩に誘われるのは嬉しい。

その後輩さんは、最恐のグルメ王だ。
彼は食に貪欲で、セミを食べる、豚の脳みそを食べる。機会があれば、人間も食べたいと言った。詳しくはnoteの「寄席芸人グルメ」に彼のことを書いてあるので読んでいただきたい。

「兄さん、ここの美術館へ行きましょう」
くしゃくしゃのチラシをもらった。

『おいしい浮世絵展』

コイツ、俺を食べる気か?

カップルがラブストーリーの映画観て気分高めるみたいな感じで誘ってんじゃないのか?

メインディッシュは俺じゃないのか?

多少、恐怖もありつつ、なんだかんだ当日はルンルン気分で美術館に着いた。

だが、待てど暮らせど全然来ない。

「兄さん、遅刻して申し訳ございません!」

誘っておいて30分の遅刻。
全然おいしくない。

「すみません、昨日へんなもん食ったみたいで、はばかりから出られませんでした」

なに食ってんだ。
おいしいもん食えよ。

そして彼は急に新作落語の話をしてきた。
僕が新作落語をつくるので、ミスを取り返すつもりで話したのだろう。急に語りだした。

「僕、新作って無駄な台詞なんかないと思うんです。たとえ、間をうめるための台詞でも、他の人が無駄だと思う台詞でも、それは演者自身の人柄が出るので、無駄ではないのです。
兄さんの新作、僕は好きです」


どうやら、俺の新作は無駄が多いらしい。
褒め言葉もおいしくない。

果てしなく無駄な時間を過ごし、ようやく展示へ。

今回は絵を堪能するというよりは、江戸の文化を堪能すると言った方がいいかもしれない。

展示されている文書を抜粋する。

当時の人々の暮らしや季節の習慣、趣味や嗜好、風景など時代を彩るあらゆるものが描かれてます。当時の人々たちの生活に思いをはせることできっと浮世絵はより鮮やかにいきいきと私たちに語りかけてくれます。
食べものの味や香り、温度や食感を思い浮かべながら、いつになくビビットに楽しもうという試みです。

そば・天ぷら・うなぎなど、他にもそれぞれのコーナーがあり、庶民たちの姿が描かれている。また解説に庶民についても書いてある。絵と文章で徐々に江戸に浸っていくのだ。
これがとても心地いい。

展示で天ぷらの浮世絵を見て、とあることを思い出した。

前座1年目の時、師匠方からいただいたお年玉をかき集めて、門前仲町にある高級天ぷら屋「みかわ 是山居」へ行ったのだ。

(食べログより)

NHKのプロフェッショナル仕事の流儀に店主の早乙女哲也さんが出演していて、とてもカッコよく、天ぷらもおいしそうで、どうしても一度は行きたかったのだ。

カウンター席に座り、目の前で天ぷらを揚げてくれる。
中がレアで半透明の海老の天ぷら。
松茸まるまる1個の天ぷらにすだちをしぼり食べる。穴子もでかい、香りがたまらない。どれも最高でおいしいのだ。
店主の早乙女さんが一段落してるのを見て、勇気を持って話しかけた。
すると気さくにプロフェッショナルの裏話をしてくれたのだ。嬉しい。

また席には、それぞれじゃばらに折られた手のひらサイズのメニューが置いてある。せっかくだから記念に持ち帰ろう。
ところが、胸ポケットに入れた瞬間

「きみ!」

ポケットのメニューを取られてしまった。
しまった、マナー違反だったのか‥

すると、早乙女さんは筆を取り出し、スラスラとメニューの裏に海老の絵を描きサインをし、
「はい」
と言って渡してくれた。


うおおー!粋な大将だ。
天ぷらはおいしいし、最高の夜だった。


そんなことを思い出しつつ、『おいしい浮世絵展』をでた。グ〜、お腹が鳴る。

さあ、ごはんを食べに行こう!!
どこへ行こうか。ひとまず、有楽町へ移動。高架線下にはいろんな店が!!
さすがに天ぷら・うなぎは行けないから和食のおいしいところかな。
そう思いつつ後輩さんに
「なに食べようかね?」
すると、

「兄さん、タイ料理食べましょうよ」

なんでだよ。

またお腹をこわせばいい‥

最後まで、おいしくない後輩だ。

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